FC今治はまだやれる|ボール奪取データと相手監督の証言が証明する”本物の変化”

Jリーグ分析

FC今治 1-2 湘南ベルマーレ。

シュート25本を放って敗戦。
この事実だけを見れば「また勝てなかった」と落胆してしまう。

でも今回は違う。

  • 相手の監督が「すごいプレッシャーだった」と認めた。
  • 相手のGKが「相手の時間が長かった」と振り返った。

負けた側のデータに、確かな”変化”が刻まれていた。

僕は元Jリーガーとして約10年間、プロの現場で戦ってきた。

監督が代わった直後のチームの空気を、何度も体感している。

あの日の今治には「空回り」ではなく「圧力」があった。

それをデータと自身の経験から証明する。


この記事を読むと、以下のことがわかる。

  • ボール奪取データが示す久保山体制の戦術転換の本質
  • シュート成功率4%が「絶望」ではなく「改善可能な課題」である理由
  • 今治サポーターが前を向ける5つの具体的根拠

J2第8節 試合結果

チームスタッツ全比較

項目内容
大会J2リーグ 第8節
日時2026年9月26日(土)17:03 KO
会場アシックス里山スタジアム
天候雨 / 21.1℃ / 湿度90%
観客4,360人
スコアFC今治 1-2 湘南ベルマーレ
指標今治湘南差
保持率51%49%+2%
シュート2515+10
枠内シュート64+2
パス(成功率)407本(72%)480本(72.9%)-73本
FK139+4
CK74+3
前半シュート123+9
後半シュート1312+1

(データ出典:スポーツナビ)

注目すべきはパス数の差だ。

今治407本に対して湘南480本。
湘南の方がパスを73本多く回している。

にもかかわらず、シュート数は今治が25対15で圧倒。FK13対9、CK7対4も今治が上回っている。

これは何を意味するか。今治は「パスを回して崩す」のではなく、「奪って素早く攻める」戦い方をしていたということだ。

少ないパスで多くのシュートを生み出す
——久保山監督が目指す「良い守備から良い攻撃」が、スタッツにはっきり表れている。


全8試合のデータが語る「変化の軌跡」

今シーズン全試合の成績を並べる。

節対戦相手スコアシュート成功率保持率チャンス構築率監督
1いわき(A)1-2156.7%56.7%12.9%モウレロ
2大宮(H)2-31711.8%59.4%12.3%モウレロ
3富山(A)0-4140.0%51.5%13.9%モウレロ
4山形(H)0-390.0%43.6%9.9%モウレロ
5大分(A)1-1137.7%48.5%11.2%モウレロ
6鳥栖(H)1-0812.5%49.3%7.6%モウレロ
7横浜FC(A)1-2119.1%47.7%9.6%久保山
8湘南(H)1-2254.0%51.0%—久保山

(データ出典:Football LAB、スポーツナビ)

ここから3つのことが読み取れる。

①シュート数25本は今シーズン最多。
2位の大宮戦17本を大きく上回った。

久保山体制になって攻撃の「量」が爆発的に増えている。

②モウレロ体制との明確な違い。
モウレロ時代の第1-2節は保持率56-59%とボールを持つスタイルだったが、シュートは15-17本。

保持率51%に下がった湘南戦でシュートが25本に増えたのは、「持つサッカー」から「奪うサッカー」への転換が効いている証拠だ。

③シュート成功率4%は確かに低い。

しかし鳥栖戦の12.5%が証明するように、「今の戦力でも決められる」。


5-3-2のプレスが生んだ「ボール奪取」の質

久保山監督は横浜FC戦後、こう語っている。

「良い守備から良い攻撃が今回のテーマ」

「どう前向きにボールを奪っていくかを考えて、[5-3-2]システムを採用」

この「前向きにボールを奪う」という言葉がカギだ。

モウレロ時代の今治は、保持率56-59%でボールを持つことに重きを置いていた。

しかしシュートは15~17本止まり。
「持っているけど攻められない」状態だった。

久保山監督の5-3-2は、まったく逆の発想だ。

2トップ(エジガル+もう1枚)が相手CBに対してワンハンドのディスタンスまで詰める。

これは湘南・長澤監督が試合後に証言している。

  • 「前線の選手がワンハンドのディスタンス(相手(オフェンス)に対して腕1本分の距離を保つこと)までしっかり近づいていって、相手の判断を少しでも奪う」というプレーそのものだ。

3MF(中盤3枚)が連動してパスコースを切り、相手をサイドに追い込む。

追い込まれた先で、5バックのWB(ウイングバック)がスライドして奪いにいく。

このプレスの連動が、個人のボール奪取データにはっきり表れている。

ボール奪取の個人データ

選手タックル(成功率)こぼれ球奪取役割
パロチェヴィッチ4回(50%)5回MF/DF
駒井善成3回(100%)—MF
梶浦勇輝2回(50%)5回MF
持井響太2回(50%)5回MF/DF

(データ出典:スポーツナビ)

注目は駒井善成のタックル成功率100%。

3回タックルに行って3回すべて成功——これは「闇雲にボールを奪いに行っている」のではなく、「奪える状況を作ってから奪いに行っている」ことを意味する。

パロチェヴィッチ、梶浦、持井のこぼれ球奪取が各5回。

合計15回のこぼれ球奪取は、
チーム全体でルーズボールに反応する意識が徹底されている証拠だ。

心理学に「集合的効力感」という概念がある。

個人ではなくチーム全体が「俺たちならできる」と感じることで、パフォーマンスが上がるという理論だ。

こぼれ球奪取15回という数字は、まさにこの集合的効力感の表れだと思う。

1人が奪いに行けば、周りも連動して拾いにいく。
その信頼関係が、久保山体制でわずか2試合にして芽生え始めている。

奪ったボールが攻撃にどうつながったか

ボールを奪うだけでは勝てない。奪った後にどう攻めるかが重要だ。

ここで光るのが駒井善成のスルーパス3本(成功率66.7%)。

駒井はタックル成功率100%でボールを奪い、
さらにスルーパス3本で前線にボールを送っている。

つまり「奪う→縦に速く展開する」という久保山サッカーの設計図を、1人で体現している。

久保山監督が「相手はカウンターに隙があると見ていたので、そのトレーニングをやってきました」と語った通り、ボール奪取からのカウンターは練習通りの形だった。

少なくともスタッツが示しているのは「奪える選手がいて、展開できる選手がいる」という事実だ。


相手監督が証言した「ブーストゲーム」の正体

今治のプレスがどれだけ効いていたか?
——最も説得力のある証拠は、相手チームのコメントにある。

湘南・長澤監督は試合後、こう語った。

「俗に言う『ブーストゲーム』だった」

ブーストゲーム——新監督就任直後に選手のモチベーションが爆発的に上がる現象を指す言葉だ。対戦相手の監督がわざわざこの言葉を使ったということは、それだけ今治の圧力が凄まじかったことを意味する。

さらに長澤監督はこう続けた。

「案の定、すごいプレッシャーで、失点シーンは圧力を感じたようなプレーで少しミスが出てしまい…」

J1経験のある湘南の監督が「案の定、すごいプレッシャー」と認めている。

しかも失点シーンについて「圧力を感じたようなプレーで少しミスが出てしまい」と、今治のプレスが湘南のミスを誘発したことを自ら証言している。

湘南GK真田幸太も「相手の時間が長かった」とコメント。

枠内シュート6本を浴び、セーブ率83.3%のスーパーセーブで湘南を救ったGKですら、今治の攻勢を認めざるを得なかった。

これらは「負けたけど内容は良かった」という今治ファンの希望的観測ではない。

Jクラブの指揮官が、データと体感の両方で認めた「事実」だ。


シュート成功率4%の「真実」——25本の質を読み解く

シュート25本で得点1。成功率4%。
この数字だけ見れば「決定力不足」の一言で片づけられる。

しかし、もう少し深く掘り下げてみたい。

まず枠内シュートは6本。25本中6本が枠に飛んでいるということは、枠内率24%。J2の平均的な枠内率が30%前後であることを考えると、やや低いが極端に悪くはない。

問題は湘南GK真田幸太のセーブ率83.3%だ。枠内6本中5本をセーブしている。

つまり「決められなかった」のではなく、「決めさせてもらえなかった」面が大きい。

ゴール分析:3つの得点シーンの戦術的意味

【エジガル ジュニオ:前半21分(今治1-0)】

前半12本のシュートを浴びせ続けた中で生まれた先制点。

久保山監督の「良い守備から良い攻撃」が最も鮮明に表れたゴールだ。

チーム全体のプレスで湘南を押し込み、
そこから生まれたチャンスをエジガルが仕留めた。

【山田寛人:前半43分(今治1-1)】

山田は試合後、

「前への動き出しを今日は意識していた」
「クロスを意識して練習していた」とコメント。

前半シュート数12対3とシュート数で圧倒されていた湘南が、少ないチャンスを一発で仕留めたのがこのゴールだ。

戦術的に見ると、今治の5-3-2プレスが前がかりになった瞬間の裏を突かれた形。

これは高い位置からプレスをかけるサッカーの「宿命的なリスク」でもある。

【ファビアン ゴンザレス:後半90+6分(今治1-2)】

PKをGK伊藤元太がセーブしたが、こぼれ球をゴンザレスが押し込んだ。

ゴンザレスは「蹴る場所も決めていた。リバウンドを決めることができたのは集中していたから」とコメント。

アディショナルタイム6分という極限の場面で、PKを止めたにもかかわらず失点——これは今治の守備が悪いのではなく、残留争いをするプレッシャーにある。

GK対決:伊藤元太 vs 真田幸太

指標伊藤元太(今治)真田幸太(湘南)
被枠内シュート4本6本
セーブ率50%83.3%
失点21

真田のセーブ率83.3%は驚異的だ。

今治が6本の枠内シュートを放ちながら1得点に終わった最大の要因は、この男の壁だった。

一方の伊藤元太は被枠内4本中2失点。

ただし2失点目はPKのリバウンドであり、PKを一度止めていることを考えると、GKとしてやるべきことはやっている。

切り札・森晃太の衝撃

指標森晃太(途中出場)
シュート2本
枠内シュート2本(100%)
ドリブル2回(成功率100%)

途中出場の森晃太が見せたパフォーマンスは特筆すべきだ。

シュート2本がすべて枠内。ドリブル2回がすべて成功。

限られた時間で「結果を出す」ことに集中したプレーだった。
今後のスタメン起用やジョーカー(切り札)としての期待が膨らむ数字だ。


前半の戦術的支配と鳥栖戦との比較

前半のスタッツを見れば、今治がどれだけ試合を支配していたかがわかる。

指標今治(前半)湘南(前半)
シュート123
シュート差+9

前半だけでシュート12対3。4倍のシュートを浴びせた。

これだけの差を作りながら、スコアは1-1。

長澤監督が「ブーストゲーム」と表現したのは、まさにこの前半の嵐のようなプレスのことだろう。

鳥栖戦(第6節)との戦術的比較

今シーズン唯一の勝利である鳥栖戦と、湘南戦を比較してみる。

指標鳥栖戦(1-0勝利)湘南戦(1-2敗戦)変化
シュート825+17
保持率49.3%51.0%+1.7%
チャンス構築率7.6%——
シュート成功率12.5%4.0%-8.5%
FK—13—
CK—7—
結果1-0 勝利1-2 敗戦—

この比較から見えてくるのは明確だ。

①攻撃の「量」は劇的に向上した。

シュート8本→25本は3倍以上。
FK13本、CK7本のセットプレー機会も加えると、今治は湘南ゴール前に何度も迫っていた。

②シュートの「質」が次の課題。

成功率12.5%→4.0%への低下は、「打てるけど決められない」状態を示している。

ただし先述の通りGK真田のセーブ率83.3%という壁も大きい。

③保持率はほぼ同じ(49-51%)。

つまり久保山監督のサッカーは「保持率50%前後で十分に攻められる」ことを証明している。

モウレロ時代の保持率56-59%は不必要に高かった可能性がある。

久保山監督は保持率を下げてでもシュート数を3倍に増やした。

「見た目のポゼッション」よりも「実質的な攻撃回数」を重視する

——この転換は、データが正しさを裏づけている。

後半の課題:13対12のシュート差が語ること

ただし後半はシュート13対12と、ほぼ互角に戻っている。

前半の12対3から、後半の13対12。
湘南がハーフタイムで修正してきたことがわかる。

湘南・長澤監督が「起こったミスは全員でカバーする」と語った通り、後半の湘南は組織的に修正してきた。そして90+6分にPKのリバウンドで勝ち越した。

ここに今治の次の課題がある。「前半のプレス強度を90分間維持できるか」。

久保山監督自身も「点を取るところはもっとこだわっていかなきゃいけない」と認めている。

前半の勢いで2-0、3-0にできていれば——そういう試合だった。


FC今治が「まだやれる」5つの理由

#理由データ根拠
1シュート数が今季最多25本2位の大宮戦17本を大幅に上回る。攻撃の「量」は確実に増えている
25-3-2プレスで奪取→速攻の形ができている駒井タックル100%+スルーパス3本、こぼれ球奪取15回(3選手合計)
3J1の湘南監督が「ブーストゲーム」と認めた圧力前半シュート12対3、FK13、CK7でJ1クラブを押し込んだ
4シュート成功率は改善可能鳥栖戦12.5%が証明。GK真田のセーブ率83.3%がなければ数字は変わっていた
5途中出場の森晃太が枠内100%・ドリブル100%ジョーカーの存在が戦術の幅を広げる

菊地健太のクロスデータが示す「崩しの武器」

指標菊地健太
クロス7本(成功率71.4%)
ATサードパス15本(成功率73.3%)

菊地健太のクロス7本(成功率71.4%)は、今治の攻撃における重要な「出口」だ。

5-3-2のプレスでボールを奪い、駒井のスルーパスで前線に展開し、菊地のクロスでゴール前に入れる——この一連の流れが、チームとしての攻撃パターンになりつつある。

ATサード(アタッキングサード=相手陣地の深い位置)でのパス15本、成功率73.3%も高水準だ。

ゴール前で質の高いプレーができていることを示している。


元プロが見る「負けてもワクワクする試合」の正体

正直に言う。

この試合のスタッツを並べたとき、悲観よりもワクワクが勝った。

プロとして10年間プレーしてきた経験から断言するが、
「何もできずに負ける試合」と「やれることをやり切って負ける試合」はまったく別物だ。

今回の湘南戦は違う。25本打った。
前半は12対3で圧倒した。相手監督に「ブーストゲーム」と言わしめた。

俺がプロ時代に経験した中で、チームが変わる瞬間というのは、大勝した試合の後ではない。

「やれることをやり切って、あと少しで勝てなかった試合」の後だった。

あの試合で足りなかったのはあれだ。

あれさえ改善すれば——と、全員が同じ方向を向ける。ここから一体感が生まれる。

久保山監督が「点を取るところはもっとこだわっていかなきゃいけない」と語ったのは、まさにこれだ。シュート25本を打てるチームが、そのこだわりを手に入れたら——

想像するだけで、元プロの血が騒ぐ。


まとめ:これから良くなる3つの視点

#チェックポイント詳細
15-3-2のプレス連動2トップがワンハンドのディスタンスまで詰める→3MFがパスコースを切る→WBが奪いに行く。この流れを次の試合でも再現できるか
2駒井善成の「奪取→展開」タックル成功率100%+スルーパス3本。この役割を90分間こなせるか、または交代で引き継げるか
3前半のプレス強度を後半も維持できるか前半12対3→後半13対12。湘南戦の後半はほぼ互角に戻った。スタミナ配分とプレス開始ラインの調整がカギ

この3つを頭に入れて次の試合を見ると、久保山監督のサッカーがもっと楽しくなるはずだ。


元Jリーガーとして10年間プレーした経験と、Football LAB・スポーツナビのデータを組み合わせて、「感覚と映像とデータ」からサッカーを読み解いている。

あくまで個人的な意見だ。

あなたの参考になればうれしい。

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