保持率43%。
パス数は湘南の547本に対して、札幌はたった394本。
それでも札幌が勝った。しかも4試合連続の無失点でだ。
札幌には、再現性がある。設計された勝利だった。
J2第14節・北海道コンサドーレ札幌vs湘南ベルマーレ(1-0)を、データと元プロの肌感覚の両面から考察した。
この記事を読むとわかること
- 札幌が「つないで崩すサッカー」から「勝ち切るサッカー」への再現性
- 保持率43%でも勝てる5-4-1守備ブロックの仕組み
- 湘南の攻撃がなぜ崩しきれなかったのか、データから読み解く
読まないと、「なんとなく札幌が強くなった」で終わってしまう。
この試合の裏側にある戦術の緻密さを、言語化できないままモヤモヤが残るのはもったいない。
試合結果と両チームの立ち位置

まず、この試合のスタッツを見てほしい。
試合スタッツ
| 項目 | 札幌 | 湘南 |
|---|---|---|
| スコア | 1 | 0 |
| フォーメーション | 3-4-2-1 | 4-4-2 |
| 保持率 | 43% | 57% |
| シュート | 15 | 14 |
| 枠内シュート | 6 | 3 |
| パス(成功率) | 394(78.2%) | 547(79.7%) |
| CK | 2 | 9 |
| FK | 16 | 11 |
| オフサイド | 1 | 5 |
| イエローカード | 2 | 0 |
(出典:スポーツナビ)
湘南がボールを持ち、パスを回し、CK9本を獲得しているのに、枠内シュートはたった3本。
札幌は保持率43%ながら枠内シュート6本。
ボールを持っていたチームが、シュートの質でも完全に負けている。
札幌はこの勝利で勝点20に到達し、9位につけている。
シーズン序盤の1勝2分5敗の低迷が嘘のように、直近4連勝・4試合連続無失点という圧巻の成績で急上昇中だ。
札幌の「勝ち切るサッカー」はなぜ機能しているのか

直近4試合の異常なデータ
| 節 | 相手 | スコア | H/A | シュート | シュート成功率 | 保持率 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 11 | 秋田 | 1-0 | H | 11 | 9.1% | 59.5% |
| 12 | 山形 | 2-0 | A | 16 | 12.5% | 47.5% |
| 13 | 富山 | 1-0 | A | 5 | 20.0% | 39.4% |
| 14 | 湘南 | 1-0 | H | 15 | — | 43.0% |
(出典:Football LAB / スポーツナビ)
ここで注目してほしいのは、保持率が徐々に下がっていることだ。
59.5% → 47.5% → 39.4% → 43.0%。
つまり、もともとボールを持てるチームが、意図的にボールを手放している。
シーズン序盤の札幌は、ポゼッションの罠にはまっていた。
ボールを持てば持つほど、ショートカウンターを食らって崩壊するパターンが繰り返されていた。
今の札幌は、現実路線へ舵をきった。
つなぐベースは残しつつ、「厳しいな」と感じた瞬間にリスクを取らない判断ができるようになっているのが印象的だ。
僕も現役時代に同じ経験がある。
「理想のサッカーを貫く」ことと「試合に勝つ」ことは、必ずしもイコールじゃない。
むしろ、状況に応じてプランを切り替えられるチームが強い。
それは「ブレている」のではなく、「柔軟に戦える」ということだ。
大森真吾の「スキップボール支配」——質的優位性のデータ
札幌の4連勝はこの男の存在が大きい。
大森真吾のスタッツを見てほしい。
大森真吾 vs 湘南CB 個人スタッツ比較
| 項目 | 大森真吾(FW) |
|---|---|
| シュート | 4 |
| 枠内シュート | 3 |
| パス(成功率) | 25(68%) |
| ブロック | 1 |
| クリア | 1 |
| こぼれ球奪取 | 0 |
| プレーエリア(ATサード) | 14 |
(出典:スポーツナビ)
大森のシュート4本、うち枠内3本。
これはこの試合の全選手中トップの数字だ。
僕のコラムではもう何度も書いているが、大森真吾の最大の武器はスキップボールへの対応力だ。
スキップボールとは中盤を経由しないロングボールのことだ。
五分五分のボール、6対4のボール。
普通のFWなら相手CBと競り合って弾かれるようなボールを、大森はことごとくマイボールにしてしまう。
最悪の場合でもスローインでマイボール。それでもマイボールだ。
これが今の札幌のサッカーにおいて、どれだけ重要かわかる人にはわかる。
後ろからつなぐ意志は見せつつも、「ちょっとでもリスクあるな」と感じた瞬間に大森へロングボールを入れる。
- 大森が収める、もしくはフリックする。
- それだけでチーム全体が前に出られる。
しかも、大森がボールを収めている間に、後ろの選手は守備のポジションを維持できている。
つまり、仮に大森からボールを奪われても、5-4のブロックがそのまま形成された状態になっている。
攻撃のポジションを取りながら、守備のポジションも意識した回し方ができている。
デザインされたCK——木實快斗の決勝ゴールの裏側

前半16分の決勝点を振り返る。
しかし、これは単なるCKからのゴールではない。完全にデザインされていた。
このゴールには、ポイントは3つある。
湘南はCKに対して基本的にゾーンディフェンスを採用し、全員を下げて守る。
このスカウティング情報をもとに、札幌はバイタルエリア付近にスペースを作る設計をしていた。
大森がストーン(ゾーンDFの最前列に立つ守備者)の進行方向に立ち、相手ディフェンダーがシュートゾーンに寄せてくるのをブロックした。
CKのボールが飛んでくるまでの約2〜3秒間、ディフェンダーの動きを封じたことで、木實がフリーでシュートを打てる状態を作り出した。
これは意図的だ。映像を見ればより鮮明にわかるはずだ。
5-4-1守備ブロックの洗練度

札幌の3-4-2-1は、守備時に5-4-1に変形する。
この試合の守備スタッツ(主要選手)
| 選手 | Pos | こぼれ球奪取 | ブロック | クリア | タックル(成功率) |
|---|---|---|---|---|---|
| 西野奨太 | DF | 6 | 4 | 5 | 1(100%) |
| 木實快斗 | MF | 1 | 2 | 5 | 2(0%) |
| 川原颯斗 | DF | 1 | 1 | 4 | 0 |
| 唐山翔自 | FW | 2 | 1 | 3 | 1(100%) |
| 浦上仁騎 | MF | 0 | 0 | 1 | 2(50%) |
(出典:スポーツナビ)
西野奨太の数字がすさまじい。こぼれ球奪取6、ブロック4、クリア5。一人で守備の要になっている。
僕自身の考察では、「西野が、裏をカバーする意識が少なかったため、湘南は西野と隣のWBの間にボールを入れてきた」。
しかしデータを見ると、西野は自陣(DFサード)でのプレーが49回と、チーム最多クラス。
ポジションを崩さず、自分のゾーンを守り切ったからこそ、この守備スタッツが出ている。
意図的に、WBの開けたスペースを埋めることはせず中央に居座り続けた可能性が高い。
5-4-1の仕組み
具体的にどう守っていたか。
ハイプレスのフェーズ(前半序盤):
試合序盤、札幌は前からプレスをかけに行く姿勢を見せた。
大森がワントップとしてCBへのパスコースを切り、その後ろの唐山翔自とスパチョークが4枚のMFラインの手前から、相手CBに横パスが入る瞬間を狙っていた。
これが重要だ。大森が一人で孤立して守備をするわけではない。
後ろの選手が牽制しながら、チーム全体で守備のスイッチを入れるタイミングを共有していた。
ミドルブロックのフェーズ(前半得点後〜):
先制点を奪った後、札幌はハーフウェイラインの少し手前に大森を置き、その後ろに4-1のラインを形成。
相手が自陣に侵入してきた場合は、4分の1まで圧縮。
大森もハーフウェイラインから自陣の2分の1まで下がり、チーム全体でコンパクトに守備ブロックを作った。
田川知樹——4試合連続クリーンシートのGK
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| この試合の被枠内シュート | 3 |
| セーブ率 | 100% |
| シーズン出場 | 13試合13先発 |
| シーズン守備CBP | 31.99 |
(出典:スポーツナビ / Football LAB)
田川知樹の4試合連続クリーンシートは、もちろんGK個人の能力もある。
しかし本質は、チームの守備が整理されたことで、田川が予測しやすい状況を作れていることにある。
GKというポジションは、チームの守備組織がめちゃくちゃだと、どこからシュートが飛んでくるかわからない。
しかし守備が整理されていれば、「ここから来る」とある程度予測準備ができる。
僕はFWとして何百回もGKと1対1をやったが、「誘導されてるな」と感じるGKは本当に嫌だった。
田川は今、まさにその「読めるGK」になっている。
チームの守備が田川を助け、田川の安定がチームの守備をさらに堅くする。
この好循環が生まれている。
湘南ベルマーレの攻撃はなぜ崩しきれなかったのか

ここからは湘南ベルマーレの目線になる。
はっきり言う。湘南の攻撃の質は高かった。
湘南ベルマーレ シーズンデータ
| 項目 | 数値 | リーグ順位 |
|---|---|---|
| 攻撃回数 | 123.2 | 4位 |
| 30mライン進入回数 | 39.4 | 6位 |
| PA進入回数 | 12.8 | 5位 |
| CK | 6.1 | 4位 |
| オフサイド | 2.8 | 1位 |
| 被ゴール | 0.9 | 3位 |
| 被シュート成功率 | 5.8% | 2位 |
(出典:Football LAB)
攻撃回数4位、PA進入5位、CK4位。
攻撃の形を作る力はJ2でもトップクラスだ。
さらに注目すべきはオフサイド2.8回でリーグ1位。
これは何を意味するか。湘南の選手たちが常に裏を狙う意識を持っているということだ。
ボランチの武田将平が前を向いた瞬間に、前の選手が裏を狙う。
この受け手と出し手のタイミングが常に意思疎通されている。
いつ刺されるボールが来ても大丈夫。
準備ができている状況で、いつでも攻撃にギアを上げられる。
湘南の攻撃が崩しきれなかった3つの理由
理由①:シュートの質の問題
つまり、攻撃回数は多いが、シュートに至る効率が悪い。
この試合でも14本のシュートを打ちながら枠内はわずか3本。
理由②:札幌の5-4-1の圧縮守備
札幌が自陣に引いた5-4-1のブロックは、湘南の得意なATサードでのプレーを封じた。
湘南の得点パターンで最多はクロスからの40%だが、この試合でクロスからの決定機はほぼ作れなかった。
密集した守備の中では、クロスのターゲットに点で合わすのは難しい。
理由③:CK9本を生かしきれなかった
湘南のチームスタイル指標で「攻撃セットプレー」は68(リーグトップレベル)。
シーズンの得点パターンでもセットプレーからの得点が33.4%を占める。
この試合でCK9本を獲得しながら得点できなかったのは、田川の好セーブと札幌の組織的なDF陣の成果だ。
湘南 シーズン得点パターン
| 得点パターン | 得点数 | 割合 |
|---|---|---|
| クロスから | 6 | 40.0% |
| セットプレーから | 5 | 33.4% |
| 30m未満パスから | 3 | 20.0% |
| こぼれ球から | 1 | 6.7% |
(出典:Football LAB)
湘南の武器であるクロスとセットプレー。
この2つで得点の73.4%を占めるが、札幌はその両方を完封した。
ただし、湘南サポーターに伝えたい。
湘南の被ゴール0.9(3位)
被シュート成功率5.8%(2位)はJ2でも屈指の守備力だ。
そしてxGA(被ゴール期待値)1.528に対して実際の被ゴールは0.92。
期待値より0.608も少ない失点という数字は、湘南の守備の質がデータ以上であることを証明している。
攻撃の課題はある。しかし、この守備力をベースにしながら攻撃の精度を上げていけば、上位争いに絡める力は十分にある。
この試合から見えた両チームの課題と改善策

札幌の「勝ち切るサッカー」のリスク
保持率を下げて勝つスタイルが定着しつつあるが、これは先制点を取れることが前提だ。
もし先制点が取れなかった場合、自分たちからゲームを動かす手段が限られてくる。
実際、第10節の磐田戦(0-1敗戦)では
保持率56.5%でシュート12本を打ちながらゴールが奪えず敗戦している。
上位に食い込むためには、守備の安定を武器にしながらも、攻撃のバリエーションを増やす必要がある。
湘南の「崩しの精度」
湘南のチャンス構築率10.1%(16位)は、攻撃回数4位のチームとしては物足りない数字だ。
たくさん攻めているのに、シュートに至る効率が悪い。
しかし、先にも書いたように湘南の守備は堅い。
守備のベースがあるチームが攻撃の精度を上げることは、その逆よりもはるかに容易だ。
長澤徹監督のもとで守備を固め、攻撃の質を上げていけば、後半戦に向けてさらに順位を上げる可能性は十分にある。
まとめ——どちらに転んでもおかしくなかった一戦

正直、この試合はセットプレーの一発で決まった。
流れの中からどちらかが圧倒したわけではない。どちらに転んでもおかしくなかった。
しかし、そのセットプレーが「たまたま入った」のではなく、スカウティングに基づいてデザインされた得点だった。
そして先制点を取った後の札幌の5-4-1が完璧に機能したこと。
ここに、今の札幌の強さがある。
ボールを持たれても、枠内シュートで上回る。
デザインされたセットプレーで先制する。そして5-4-1で90分を守り切る。
それが今の札幌のサッカーだし、J2で上に行くための戦い方だと思う。
再現性ある勝利はまた一つ選手の自信になる。
僕はプロ10年の中で、「理想を追うこと」と「勝つこと」のバランスに何度も悩んだ。
結論は一つ。勝てなければ、理想を語る余白はなくなる。
札幌は今、勝つための形を見つけた。
湘南も、守備という確かな土台がある。ここからの巻き返しを楽しみにしている。


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