FC今治はなぜ”殴り続ける”サッカーで連勝できたのか?データが暴く久保山体制の再現性

サッカー上達

シュートを24本打って1得点。それが3週間前の今治だった。

そして徳島戦、シュート10本。ボール支配率はたったの41%。

それでもFC今治は徳島ヴォルティスを2-1で沈め、アウェイ2連勝を飾った。

変わったのはシュートの”打ち方”ではない。“奪い方”だ。

久保山体制が選んだのは、ゴール前へ「やりきる」サッカーだ。

いわゆる何度も何度も殴り続けるサッカー。
きれいに崩す必要はない。殴り続ければ、ズレが生まれる。

この記事では、元プロサッカー選手(プロ10年)の視点から、データと元プロの肌感覚から久保山体制の「再現性」を言語化する。

この記事を読むとわかること

  • 久保山体制で何が変わったのか
    ——データが示す「脱ポゼッション」の真実
  • DAZNで聞こえた「やりきれ」「足を止めるな」の戦術的意味
  • 梶浦勇輝がなぜキーマンになったのか

逆にこの視点を持たずに試合を見続けると、「なんとなく勝った」「なんとなく負けた」で終わってしまう。

サッカーの見方が変わる記事になるはずだ。

FC今治 数字が語る「転換点」

今日の徳島戦のスタッツを見てほしい。

指標FC今治徳島ヴォルティス
ボール支配率41%59%
シュート数1021
枠内シュート511
パス成功数197437
第10節 試合速報データ

支配率41%。パス成功数197対437。シュート数10対21。

すべての数字で圧倒されている。でも2-1で勝った。

正直に言うと、徳島は久保山サッカーとの相性が良い相手だった。

ボールを持ちたがるチームに対して、今治は持たせて奪うサッカーができる。

相手が持てば持つほど、高い位置でのボール奪取の機会が増える。

シュート10本で枠内5本——枠内率50%。
打てばゴールに飛ぶ。量より質のプレーを発揮できる。

そして一つのデータで今治の強みが見えてきた。

FC今治は、奪取ポイント100超えの試合は、負けていない。

  • 大分戦102.24→1-1の引き分け。
  • 栃木C戦100.36→2-1の勝利。

逆に、奪取ポイント60以下の3試合(いわき54.90、富山62.01、山形53.91)は全敗だ。

今治の生命線は「どれだけボールを持つか」ではない。

「どれだけ高い位置で奪えるか」にある。

モウレロ体制 vs 久保山体制——データが示す「設計思想」の違い

指標モウレロ久保山変化
平均保持率51.5%49.0%↓2.5%
平均シュート成功率6.5%10.5%↑4.0%
平均パスCBP11.127.76↓3.36
平均奪取P74.9885.21↑10.23
データ出典:Football LAB

この表には、久保山体制の設計思想がすべて詰まっている。

パスCBPが11.12→7.76に下がったということは、パスを回す回数を意図的に減らしているということだ。

代わりに奪取ポイントが74.98→85.21に跳ね上がっている。

つまり、久保山監督が選んだのは——

「持つサッカー」から「奪うサッカー」への転換。

そしてシュート成功率が6.5%→10.5%に改善した事実が、「奪った後の設計」がされていることの証拠だ。

采雲に奪ってるわけじゃない、奪い方のデザインができているから、少ないチャンスで点が取れる。

心理学では「少ないほど良い効果」(Less is More Effect)という考え方がある。

選択肢が多すぎると人は迷い、判断が遅れる。
逆に選択肢が絞られると、一つひとつの判断が研ぎ澄まされる。

久保山体制のサッカーは、まさにこの原理が働いている。

パスの選択肢を増やすのではなく、「ここで奪って、ここに出す」というシンプルな判断の連続で攻撃を設計している。

前線3枚の「守備のスイッチ」——再現性が生まれた理由

今日の徳島戦を見て、立ち上がりから確信した。
このチームのプレスには再現性がある。

エジガルジュニオ、駒井、持井。この前線3枚のプレスのかけ方が絶妙だった。

ポイントは「中央切りからサイドに追い込む」守備の設計にある。

3枚が闇雲にプレスをかけるのではなく、中央のパスコースを消しながら、相手をサイドバックの位置に追い込んでいく。

森のいる左サイドに意図的にボールを誘導し、高い位置で奪い取る。

これが「守備のスイッチ」であり、同時に「攻撃のスイッチ」でもある。

高い位置のサイドで奪ったボールは、そのまま手数をかけずにゴールに向かう。

ショートカウンターだ。パスを5本、10本と回す必要がない。奪った瞬間に2〜3本のパスでシュートまで持っていく。

僕はプロ10年の中で、このタイプのサッカーを経験したことがある。

正直、やっている選手はめちゃくちゃきつい。でも勝てるサッカーだ。

手応えがあるからこそ、走れる。
それを久保山監督はチームに落とし込むことが出来ている。

判断がシンプルだから迷わない。
迷わないからミスが減る。ミスが減るから少ないチャンスで点が取れる。

1点目を解剖する——「ゴールの設計図」が透けて見えた

今日の1点目の流れを振り返る。

まず、高い位置でボールを奪った。ショートカウンターを仕掛けたが、相手のファールでフリーキックを獲得。ここまでが「奪うサッカー」の設計通りだ。

森のフリーキックからクロスが入り、一度は弾かれる。

ここからが今治のサッカーの真骨頂だと思っている。

ボールを拾った駒井が、簡単に下げずに再度クロスを上げた。

以前の今治なら、弾かれた時点でボールを下げて作り直していた。

でも今は違う。ゴール前に何度もボールを送り続ける。そしてエジガルジュニオがゴールを決めた。

特筆すべきは、クロスの瞬間にゴール前に5枚入っていたことだ。

これは偶然じゃない。久保山監督の「ゴールを取るために何をするか」という設計思想が、選手の動きに染み込んでいる証だ。

ゴール前に人数をかける。何度もクロスを上げる。人がいても、点と点が合えばゴールは生まれる。

「やりきれ」の正体——殴り続けることで生まれるズレ

DAZNを見ていた人なら聞こえたと思う。

  • 「やりきれ」

この一言には、久保山体制のサッカーの核心が詰まっている。

サッカーにおいて、ゴール前にボールを送り続けるということは、ブロックを組んだ相手の壁を何度も何度も殴り続ける行為だと思っている。

1回殴って崩れなかったら、もう1回殴る。2回殴って崩れなかったら、3回目を殴る。

最初は完璧にブロックを組んでいた相手も、3回、4回と殴り続けると少しずつズレが生まれる。

  • マークがずれる
  • カバーが遅れる
  • 集中が切れる

「やりきれ」とは、そのズレが生まれるまで殴り続けることだ。

僕自身、FWとしてプロ10年やってきた中で、身体に刻まれた感覚がある。

「あ、今ズレた」という瞬間は必ず来る。来るまでやり続けるしかない。来ないこともある。でもやらなければ絶対に来ない。

今回のエジガルジュニオのゴールは、まさにそれだった。

弾かれても下げない。もう1回送る。
人がいても関係ない。量がゴールを生む。

行動経済学には「努力の錯覚」という概念がある。

「きれいにパスを回している攻めている」と錯覚してしまう心理だ。でもデータが示す通り、パスCBPが高い試合で今治は負けている。

本当に攻めているのは、パスを回している時間じゃない。ゴール前へボールを送っている脅威な時間だ。

「足を止めるな」——90分の設計で勝つということ

もうひとつ、DAZNから聞こえた言葉がある。

「足を止めるな」

これは「やりきれ」と対になるコーチングだ。

「やりきれ」が攻撃の設計なら、「足を止めるな」は90分間を通した設計を指している。

久保山体制のサッカーは、前線から激しくプレスをかけてボールを奪い、ショートカウンターで決める。

このスタイルは身体的な負担が極めて大きい。
特にFWとボランチにかかる負荷は尋常ではない。

足を止めた瞬間にプレスのスイッチが入らなくなる。

  • スイッチが入らなければ奪えない。
  • 奪えなければ攻められない。

つまり「足を止めるな」は「攻撃の起点を絶やすな」と同義だと思っている。

プロ10年の経験から言うと、この強度を90分間維持するのは本当にきつい。

だからこそ、久保山監督は前線のメンバーを固定し、彼らが動ける時間帯に集中的にボールを取りに行く設計をしている。

前半に主導権を握り、スコアリードした状態で後半を戦う。そういうゲームプランが見えた。

心理学で「計画錯誤」という概念がある。やりたいサッカーに必要なリソース(選手の体力・質)を過小評価してしまうことだ。

モウレロ体制のポゼッションサッカーは、今治の選手の特性を考えると時間が必要だったことも含め計画錯誤だったとも言える。

久保山体制は、今いる選手の特性に合ったサッカーを選んだ、だからこの再現性が生まれている。

そして、その再現性が選手の自信になっている。

信じて走れるチームを止めることは難しい。

梶浦勇輝——久保山体制で「最も鍵を握る男」

この話をせずに今回の試合は語れない。

梶浦勇輝。久保山体制で最も存在感を放っている選手だ。

期間試合数先発フル出場ポジション
モウレロ体制(第1-6節)3試合20CH(途中交代)
久保山体制(第7-9節+第10節)4試合43(+今日)CH/OH
データ出典:Football LAB

データを見ればわかる。モウレロ体制では怪我の影響もあり6試合中3試合しか出場できていない。

一度もフル出場がなかった。

それが久保山体制になった瞬間、全試合先発フル出場のキーマンに変貌した。

ピピ(中井卓大)が第1節から第7節まで全試合先発していたポジションに、久保山監督は梶浦を配置した。

そして攻守において安定感をもたらし、90分間を通して効き続けている。

梶浦の奪取ポイントを見ると、鳥栖戦10.16、横浜FC戦9.17とチーム内でもトップクラスの数値を記録している。

久保山体制の「奪うサッカー」を成立させるために、ボランチで安定したボール奪取ができる梶浦が不可欠だったということだ。

これは、監督によって選手の出番が変わるという残酷な事実も示している。

プロ10年の中で監督交代を何度か経験した。
前の監督では干されていたのに、新しい監督になった瞬間にスタメンを掴む。

逆もある。昨日まで主力だったのに、翌日にはベンチ外。プロの世界では日常茶飯事だ。

大事なのは、自分の武器を磨き続けること。

使ってくれる監督は必ず現れる。

GK伊藤——前線の守備を活かす最後の砦

そしてもう一人、GK伊藤元太の存在も大きかった。

久保山体制のサッカーでは、前線がプレスのスイッチを入れてくれる分、GKの負担が減る——と思いきや、実はそうでもない。

後方のCBのスピード不足(後述する)があるため、裏を取られた時のGKの対応が重要になる。

伊藤が怪我なくこのまま調子を上げていくことで、前線3枚の「守備から攻撃への切り替え」がさらに活きてくる。

GKが安定すれば、FWはより大胆にプレスをかけられる。

この好循環が回り始めている兆しが、今日の徳島戦にはあった。

「一度やり直す」——今治の守備を救った判断

支配率59%の徳島が押し込んでくる時間帯は確実に存在した。

しかし、そこで「一度やり直す」という判断が今治の守備を立て直した。

象徴的だったのが終盤のシーンだ。
徳島の杉本が左サイドでボールを持ち、宮崎にパスを出した。

正直に言うと、あの場面でシンプルにクロスを上げられた方が圧倒的に苦しかったはずだ。

クロスを上げずにパスを選択してくれたことで、今治のDFラインは態勢を整え直す時間を得た。つまり、今治側から見れば「やり直しの時間」をもらえた形だ。

プロ10年の経験から言えば、ゴール前で最も怖いのは「考えずにクロスを上げてくる」選手だ。考える選手、一回止まる選手は、その瞬間に守備側が整う。

サッカーにおいて「判断の遅さ」は、攻撃側のミスであり守備側の助けになる。

これは久保山体制の「やりきれ」の裏返しでもある。

今治が攻撃時にやり直さずに何度も殴り続けるのと同じで、相手がやり直してくれたら、今治は助かる。

つまり「やりきれ」を自分たちがやり、相手にやらせない
——これが久保山サッカーの攻守の鍵になるはずだ。

課題①:CBのスピード不足——5枚いても裏を取られる

ここからは課題を正直に指摘する。

久保山体制のサッカーは、前からスイッチを入れていくスタイルだ。前線3枚が高い位置でプレスをかける。当然、後ろにはスペースが生まれる。

問題は、CBがそのスペースをケアできないこと。

5枚のDFがいるにもかかわらず、裏を取られるシーンが何度かあった。

カバーリングが間に合わないのか、そもそも足が遅いのか。
どちらにしても、前からプレスをかけるサッカーにおいて、CBのスピード不足は致命的な弱点になりうる。

J2の上位チームには、背後のスペースを突くのがうまいチームがいくらでもいる。

この弱点を狙われた時に耐えられるかどうか。

今後の対戦で試されるポイントだ。

課題②:フィジカル負担——この強度でやり続けられるか

もうひとつ、構造的な課題がある。

今やっているサッカーは、身体的な負担が極めて大きい。

特にFWとボランチへの負荷が重い。前線は90分間プレスをかけ続け、ボランチは守備のフィルターとして走り回りながら、攻撃にも参加しなければならない。

そしてここに、再現性の「限界」がある。

今日の試合でも、エジガルジュニオ、駒井、持井が交代した後に、同じ強度のプレスと質を継続できる選手がいなかった。

後半の交代後を見ると、前半の再現性が消えてしまっている。

再現性はある。でもまだ「人」に依存している。

これはどのチームも抱えている問題だ。
ただ、今治の場合はスタメンとベンチの差が大きい。

ここにもう1〜2枚、久保山監督のサッカーを「読める」選手が出てくると、このチームは化ける可能性がある。

心理学には「デフォルト効果」という概念がある。
人は変化を避け、「いつものプレー」に流れる傾向がある。

交代で入った選手が、久保山サッカーの強度を自分の「デフォルト」にできるかどうか。

練習から落とし込むことは、いまの久保山監督には期待しかない。

まとめ——「再現性」はチームを強くする

ポイント結論
久保山体制の設計思想「持つサッカー」
   ↓
「奪うサッカー」へ転換。
パスCBP↓、奪取P↑
前線3枚の再現性◯ プレスの型がある。
意思統一ができている
交代後の継続性△ 主力4人が抜けると強度が維持できない
梶浦の重要性◎ 久保山体制の鍵。
奪取Pでチームトップクラス
CBのスピード× 裏を取られる弱点は構造的
フィジカル負担△ この強度を38試合続けられるかが課題

FC今治の久保山体制には、確かに再現性の芽がある。

  • 前線3枚のプレス
  • サイドに追い込む守備のスイッチ
  • 高い位置で奪ってショートカウンター
  • ゴール前に5枚入れて殴り続ける

この一連の流れに「型」がある。

でも、まだ「人」に依存している。
エジガルジュニオ、駒井、森、持井、梶浦

あくまで個人的な意見だが、
——この5人がいる時間帯だけの再現性にみえる。

ここにもう1〜2枚、この型を「読める」選手が出てくれば、久保山監督のサッカーは化ける。

ゴール前へ殴り続けるパスをだせる。足を止めない。やりきれる。

それがJ2で生き残るサッカーだと、今治の再現性をみて率直に興奮している。

あなたの参考になればうれしい。

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