【FC今治vsブラウブリッツ秋田|J2第13節】セットプレーも戦術だ。

Jリーグ分析

秋田ってこんなに弱いの?

そう思ったあなたは、手のひらの上で転がされている。

保持率39%。
パス成功率48.3%。

数字だけ見れば今治が圧倒していた。でも勝ったのは秋田だ。

元プロ(FW/プロ10年)の僕がこの試合の映像を見て確信したことがある。

秋田は「持てないから持たない」のではない。「持てるのに持たない」

この違いがわからないと、秋田のサッカーは一生理解できない。

この記事を読むとわかること

  • 秋田のセカンドボール回収が「偶然」ではなく「設計」である理由
  • セットプレーの「反らし」が人間の視覚のバグを突いている仕組み
  • 監督交代後のFC今治がブレてはいけない理由(元プロの実体験から)

逆に、読まないとどうなるか。「秋田は弱い」という表面的な印象のまま、次にこのチームと対戦するときも同じ罠にハマる。


この試合のスタッツ

まず、数字を見てほしい。

指標ブラウブリッツ秋田FC今治
ボール保持率39%61%
シュート1312
枠内シュート54
パス(成功率)242本(48.3%)433本(69.5%)
CK76
FK1416

(出典:スポーツナビ 2026年10月25日)

今治はパスを433本つないだ。秋田の約1.8倍だ。

しかしシュート数は13対12で秋田が上回り、枠内シュートも5対4で秋田がリードしている。

ボールを持っている時間が長いほうが有利。
そう思うのは自然なことだ。

パスを回すこと。それ自体は攻撃ではない。


「持てるのに持たない」の根拠——岡崎亮平という男の正体

秋田のCB岡崎亮平のスタッツを見てほしい。

指標数値
パス本数15本
パス成功率40.0%
ATサードパス0本
クリア7回
シュート1本

(出典:スポーツナビ 個人スタッツ)

パス成功率40%。ATサード(アタッキングサード)へのパス0本。

この数字だけ見れば「繋げないCB」に見える。でもそうではない。

僕は、映像をみて岡崎亮平が秋田の最終ラインにいることを知った。

岡崎亮平は中央大学出身の技巧派CBだ。
湘南ベルマーレでプロキャリアをスタートし、ロアッソ熊本への期限付き移籍を経て湘南に復帰。その後FC琉球に移籍し、琉球がJ2で上位躍進を果たした時期にレギュラーとしてプレーしていた。

つまり、足元の技術がある。つなげるCBだ。
むしろその印象が強い選手だ。

それなのにパス成功率40%。ATサード0本。

  • これは「持てないから蹴っている」のではない。
  • 「持てるけど蹴ることを選んでいる」

秋田というチームを見ると、「自分たちのやりたいサッカー」に必要な選手能力やピッチコンディション、相手の出方といった変数を過小評価せずピッチ上で図っていることがわかる。

自分たちの武器を冷静に見極め、「持たない」ことを戦略として選んでいる。

岡崎亮平のパス成功率40%は、「下手だから」ではない。

「意図的に前に蹴っているから」低いというわけだ。

僕はFWとしてプロ10年プレーした、こういうCBが相手のときが一番嫌だった。

技術があるのにシンプルに蹴ってくるCBは読めない。

「つないでくるかも」と思って前からプレスに行くと、頭を越えて背後にボールが飛んでくる。かと思えば、急にワンタッチで縦パスを通してくる。

持てるのに持たない。これは一番怖い。


セカンドボール回収の「設計図」——偶然じゃない、距離の科学

この試合で最も注目すべきは、秋田のセカンドボール回収だ。

映像を見ていて気づいたのは、GKからボールを蹴る判断をした時に秋田のCBライン・FWライン・ボランチの距離が異常に短かかった。

通常、ディフェンスラインとFWラインの間は40〜50mほど開くが、秋田はそれを極端に圧縮していた。

なぜか。

セカンドボール——つまり、こぼれ球を拾うためだ。

個人スタッツを見れば、その設計が浮かび上がる。

選手ポジションこぼれ球奪取クリアタックル成功率
高橋秀典DF6回9回—
野々村鷹人DF—8回4回(100%)

(出典:スポーツナビ 個人スタッツ)

高橋秀典。DF登録でありながら、
シュート3本・こぼれ球奪取6回・クリア9回。

これは何を意味するか。

CBが前に蹴る→FWが競る→こぼれたボールをCBライン付近にいるDF・MFが回収する。

この流れが「設計」として組み込まれている。

  • ロングボールを蹴って「あとは個人の力で」ではない。
  • 蹴った後のセカンドボールを誰が、どこで拾うかまで設計されている。

前半は今治もセカンドボールを拾えていた。

でも時間が経つにつれて、回収できなくなっていく。

なぜか???

秋田のCB-FW-ボランチ間の距離が短いということは、今治はその密集に入っていかなければセカンドボールを拾えない。

入っていくには体力がいる。後半になるほど足が止まり、秋田の密集に入れなくなる。

これは偶然の産物ではない。
90分間やり続ける秋田のグリットにあった。


今治の右サイド——駒井善成の「対中野」設計

今治も手をこまねいていたわけじゃない。

久保山由清監督は、この試合で普段の3バックではなく4-4-2を選択したように映った。

映像を見て感じたのは、右サイドの設計だ。

MFの駒井善成を右に配置し、秋田の左サイドの核である中野嘉大と対峙させた。

駒井善成はJ1で長く戦ってきたベテランだ。
アジリティとフットワークに優れ、1対1の対応力がある。

中野嘉大の仕掛けを封じるにはうってつけの人選だった。

右SBの梅木怜と駒井で右サイドのユニットを形成し、秋田唯一のストロングポイントである左サイドを意図的に封じにかかった。

実際、中野嘉大のスタッツを見ると:

指標数値
パス本数16本
パス成功率25.0%
ATサードパス9本(成功率44.4%)
ドリブル成功率0%(2回中0回)
シュート1本

(出典:スポーツナビ 個人スタッツ)

パス成功率25%。ドリブル成功率0%。

秋田の攻撃の核を封じることには、ある程度成功していた。
中野は後半19分に交代している。

一方で、今治の攻撃の中心は

  • 左サイドの森晃太(ドリブル6回中4回成功、クロス6本)と、
  • 中央のパロチェヴィッチ(プレー数85でチーム最多、パス49本)だった。

今治のGKがわざと秋田のFWを引き出してからエジガル ジュニオや古山兼悟にロングボールを送る意図も見えた。

やろうとしていることは明確だった。

でも、勝てなかった。


セットプレーの「反らし」——視界のバグを突く設計

88分、鈴木翔大のゴールで秋田が先制。

途中出場からわずか24分での決勝点だった。

この試合で秋田はCK7本を獲得している。

そしてセットプレーにおいて、明確な「反らし」の設計が見えた。

反らしとは何か。

ニアサイドに飛び込む選手が、ボールをそのまま決めるのではなく、意図的に「反らして」ファーサイドに流す。

なぜこれが効くのか。

人間の視覚にはアンカリング効果が働く。

最初にボールの軌道を目で追い始めると、その方向に注意が固定(アンカー)される。ニアに飛んだボールを目で追った瞬間、ファーサイドの状況が一瞬消える。

  • この「視界のバグ」を秋田は意図的に突いている。

ロングスローも含めて、秋田のセットプレーは「反らし」を前提に設計されている。

ニアの選手は「決める」のではなく「反らす」ことが仕事。

ファーの選手は「反ってくるボール」に合わせることが仕事。

それぞれの役割が分かれている。

これをただの「セットプレーが強い」で片付けてしまうと、本質を見逃す。

反らしは紛れもなく設計だった。


監督交代後のFC今治——「ブレないこと」の重要性

FC今治は9月20日にアベル・モウレロ監督を解任し、2024年からヘッドコーチを務めていた久保山由清氏が監督に就任した。

項目詳細
前監督アベル・モウレロ(9月20日解任)
新監督久保山由清(2024年〜ヘッドコーチ)
現在順位J2 19位(3勝2分8敗・勝点11)※第13節終了時

監督が変わればサッカーが劇的に変わる。そう期待するのは自然なことだ。

でも、僕のプロ経験から言わせてもらうと、監督が変わって劇的に良くなることはほとんどない。

少し前に考察した記事でも書いている。

なぜか。

選手の能力は変わらない。

戦術の浸透には時間がかかる。何より、チーム内の空気が一番厄介だ。

僕自身、プロ生活の中で監督交代を何度も経験した。
監督が変わった直後、チームには2つの空気が流れる。

  • ひとつは「自分のチャンスが来た」と思う選手の空気。
  • もうひとつは「また序列がリセットされるのか」という不安の空気。

出場できていない選手にとって、監督交代は千載一遇のチャンスだ。

でも出場できている選手にとっては脅威でもある。

このズレが、チームの一体感を壊す。

監督が変わっても、選手が「前の監督のやり方のほうが良かった」と思ってしまうと、新しい戦術は浸透しない。

だからこそ、一番大事なのはブレないことだ。

今治は19位。残留争いの渦中にいる。

ここで焦って毎試合やり方を変えたら、選手は何を信じていいかわからなくなる。

サッカーに正解はない。

でも「ブレること」だけは間違いだと、僕は10年のプロ生活で体に刻んだ苦い経験だ。


ひとつだけ、元プロの立場で言わせてほしいことがある。

  • 監督交代後、出場できない選手の気持ちは想像以上にきつい。

試合に出られなければ、評価のつけようがない。

練習でどれだけアピールしても、試合の結果でしか評価されない世界だ。

「なんで俺じゃないんだ」

その怒りは自然だ。でもその怒りをチームにぶつけた瞬間、チームは内側から崩壊する。

僕がプロ時代に学んだのは、まずチームの状況を立て直して勝ち点を重ねること。

その中で自分のチャンスをつかむ。順番を間違えると、チームも自分も沈む。

今治の選手たちには、ここを乗り越えてほしい。

Just do it

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