ジュビロ磐田が苦しんでいる。
ゴール期待値(xG)リーグ7位、被xGリーグ4位
——攻守ともにJ2上位の数値を叩き出しながら、順位は14位。この矛盾を、データだけで解き明かしていく。
個人的な感情を入れると、ジュビロ磐田のサッカーをまじで参考になる。
映像を見ていても、選手の質、強度、プレーの強さは本物だと感じる。
でも、結果がついてこない。
磐田サポーターだけではないと思う。
Jリーグを見ているサッカー通の人が、同じ疑問を抱えているはずだ。
僕は元プロサッカー選手として10年間プレーしてきた。
「いいサッカーをしているのに勝てない」
——その苦しみは、自分の体験にも刻まれている。
だからこそ、今回は感情を一度横に置く。
データだけで、磐田の現状を俯瞰してみたい。
この記事を読むとわかること
- 磐田がxGリーグ7位・被xG4位という「J2屈指の戦力」である根拠
- チャンスを作れているのに決められない「変換効率の崩壊」の正体
- データが示す「何かのきっかけで爆発する」可能性の根拠
この記事を読まないと、「磐田は弱い」「選手の質が足りない」という感情論に流されたまま、本当の課題が見えなくなる。
データは何を語るか

まず、26/27シーズンJ2リーグ第13節までの全試合成績を並べる。
戦績:4勝4分5敗 勝点16 14位
得点14、失点15、得失点差-1。
一見すると「中位の平凡なチーム」に見える。
でも、ここからが本題だ。
xGが暴く「見えない実力」——磐田はJ2で7番目に強い

サッカーには「ゴール期待値(xG)」という指標がある。
シュートの位置、角度、状況から「そのシュートが何%の確率でゴールになるか」を計算したもの。
これを見ると、磐田の本当の実力が浮かび上がる。
| チーム | xG/試合 | 実ゴール/試合 | 差分 | 順位 |
|---|---|---|---|---|
| 富山 | 1.806 | 1.69 | -0.116 | 3位 |
| 横浜FC | 1.644 | 1.92 | +0.276 | 4位 |
| 仙台 | 1.625 | 1.69 | +0.065 | 1位 |
| 鳥栖 | 1.628 | 1.08 | -0.548 | 10位 |
| 磐田 | 1.577 | 1.08 | -0.497 | 14位 |
(データ出典:Football LAB J2チームランキング 2026)
気づいただろうか。
つまり、「チャンスの質」だけで見れば、磐田はJ2で7番目に良い攻撃をしている。
さらに被xG(相手に作られるチャンスの質)は1.084で4位。
守備のチャンスを作らせない力はリーグトップクラスだ。
攻撃7位、守備4位
——これが14位のチームのデータだ。
では、なぜ14位なのか。それは「差分」にあると思っている。
1試合あたり「期待されるゴールの約半分」を決められていないことになる。
13試合で換算すると、約6.5点分のゴールを取りこぼしている計算だ。
これが「変換効率の崩壊」という理由だ。
一方、首位・仙台は+0.065。
4位・横浜FCに至っては+0.276
——期待値以上にゴールを決めている。
磐田と横浜FCのxGは0.067しか差がない。
ほぼ同じ質のチャンスを作っている。なのに、横浜FCは1試合1.92点取り、磐田は1.08点しか取れない。
この差が、4位と14位の差に表れている。
3つの疑問
ここまでのデータを見て、おそらく3つの疑問が浮かんでいるはずだ。
- 疑問①:「チャンスを作れているのに決められない」——具体的に誰が?
- 疑問②:「攻撃回数が多いのにゴールが少ない」——どこで詰まっている?
- 疑問③:「守備は悪くないのに負ける」——何が足りない?
一つずつ、データから考察していく。
この感覚は、データでは見えない

データに入る前に、一つだけ実体験を語らせてほしい。
現役時代、「いいサッカーをしているのに勝てない」時期が何度かあった。
試合中も「今日はいける」と感じている。
でも、決定機を外す。何本打っても入らない。
そうすると、チーム全体に見えないブレーキがかかり始める。
「次こそ決めないと」というプレッシャーが、体を硬くし始める。
いつもなら自然に振れるシュートを、考えて打つようになる。
心理学では、これを「チョーキング」と呼ぶ。
プレッシャーがかかると、ふだんは無意識にできていた動作を意識的にコントロールしようとして、かえってパフォーマンスが下がる現象だ。
磐田のデータを見ていて、あの感覚がチーム内にあるのではないか思い出した。
課題①:乾貴士21本シュート0ゴール——「決める人」の不在

磐田の選手別シュートデータを見る。
| 選手 | シュート | ゴール | 成功率 |
|---|---|---|---|
| イアゴ・テレス | 28 | 5 | 17.9% |
| 乾貴士 | 21 | 0 | 0.0% |
| ジョアン・ヴィクトル | 18 | 3 | 16.7% |
| 太田龍之介 | 14 | 2 | 14.3% |
| 藤原健介 | 14 | 0 | 0.0% |
| マテウス・ペイショット | 出場3試合 | 0 | 0.0% |
(データ出典:Football LAB 磐田選手ランキング 2026)
攻撃のCBP(チャンスビルディングポイント)ではチームトップ。
つまり、チャンスを「作る力」はリーグトップクラスだ。
しかし、ゴールがない。
唯一、安定してゴールを決めているのは
イアゴ・テレス(28本5ゴール、成功率17.9%)だけだ。
xGが示すとおり、良い位置からシュートを打てている。
問題は、ゴールを「決めきれる」選手が1人しかいないことだ。
行動経済学に「少数の法則」という概念がある。
少ないサンプルから全体を判断してしまう認知バイアスだ。
磐田の場合、イアゴ・テレスという「少数の成功例」があるがゆえに、チーム全体の決定力不足が見えにくくなっている可能性がある。
データは冷酷に教えてくれる。
課題②:攻撃回数5位なのにゴール13位——「量」から「質」への変換ロス

次に、チャンス構築率でJ2上位チームと比較する。
| チーム | 攻撃回数 | シュート | 構築率 | ゴール/試合 | 成功率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 富山 | 121.6(7位) | 20.5(1位) | 16.9%(1位) | 1.7(3位) | 8.2%(14位) |
| 仙台 | 121.3(8位) | 16.4(4位) | 13.5%(5位) | 1.7(3位) | 10.3%(7位) |
| 横浜FC | 115.2(16位) | 15.7(5位) | 13.6%(3位) | 1.9(1位) | 12.3%(1位) |
| 磐田 | 122.7(5位) | 13.5(10位) | 11.0%(11位) | 1.1(13位) | 8.0%(15位) |
(データ出典:Football LAB J2チームランキング 2026)
攻撃回数はJ2で5位。
しかしシュート成功率は15位。
攻撃の「量」はリーグ上位。
でも、それを「ゴール」に変換する効率が壊滅的に低い。
攻撃の「量」はある。
でも「質」への変換で、2段階のロスが起きている。
首位・横浜FCは攻撃回数16位と少ないが、構築率3位、成功率1位。
少ない攻撃を確実にゴールに変えている。
課題③:最多パス交換がCB-ボランチ間——前線へ「届いていない」

もう一つ、興味深いデータがある。
磐田のパス交換回数トップ3を見てほしい。
| パス交換ペア | 回数 |
|---|---|
| ダニーロ → 桑原航太 | 82回 |
| ダニーロ → ユーリ・ララ | 82回 |
| ユーリ・ララ → ダニーロ | 78回 |
(データ出典:Football LAB 磐田チームレポート 2026)
最多パス交換が、すべてCB(センターバック)とボランチの間で完結している。
つまり、磐田のボール保持は後方で回している時間が長い。
ではなぜ、磐田のボール保持は後方で完結してしまうのか。
その根本的な原因は、「先制点を取られる試合が多い」という構造にある。
全13試合の先制点パターンを整理した。
| 先制チーム | 試合数 | 勝 | 分 | 敗 | 勝点 |
|---|---|---|---|---|---|
| 磐田が先制 | 6試合 | 4 | 2 | 0 | 14 |
| 相手が先制 | 6試合 | 0 | 1 | 5 | 1 |
| 得点なし | 1試合 | 0 | 1 | 0 | 1 |
(データ出典:Football LAB 磐田マッチレポート)
この差は衝撃的だ。
先制した試合では一度も負けていないのに、先制された試合では一度も勝てていない。
具体的な試合を見ていく。
| 対戦相手 | 先制 | 先制時間 | 結果 |
|---|---|---|---|
| 秋田 | 磐田 | 1分 | △1-1 |
| 横浜FC | 相手 | 28分 | ●1-3 |
| 徳島 | 磐田 | 13分 | ○2-1 |
| 栃木C | 磐田 | 2分 | ○3-1 |
| 富山 | 相手 | 22分 | ●0-1 |
| 甲府 | 磐田 | 74分 | ○1-0 |
| 新潟 | 相手 | 30分 | ●1-2 |
| 八戸 | 相手 | 9分 | ●1-2 |
| 仙台 | 相手 | 2分 | ●1-2 |
| 札幌 | 磐田 | 42分 | ○1-0 |
| 宮崎 | 磐田 | 8分 | △1-1 |
| 大分 | — | — | △0-0 |
| いわき | 相手 | 6分 | △1-1 |
注目すべきは、先制された6試合で磐田が一度も逆転できていない。
八戸戦と仙台戦では一度追いつきながら再び勝ち越された。
いわき戦も追いついたがドローまで。
横浜FC戦と新潟戦は終盤にようやく1点返しただけ。
富山戦に至っては無得点のまま終わっている。
ここにCB間ボール回しの根本原因がある。
先制された磐田はビハインドを追う展開になる。
すると相手は無理に前に出る必要がなくなり、自陣に5-4-1や4-4-2のブロックを敷いて守る。磐田は相手のブロックの外側——つまりCBとボランチの間でボールを回すしかなくなる。
横パス→バックパス→横パス。
ボール保持率は上がるが、それは「攻めている」のではなく「ブロックの前で行き詰まっている」ことがわかる。
保持率67.5%の八戸戦が典型例だ。
前半9分に先制され、25本のシュートを打ちながら1-2で敗れた。
ボール保持率は「攻めている証拠」ではなく、「ビハインドを追い続けた時間の長さ」の指標になっている。
被xG4位——磐田の守備は実はリーグトップクラス

ここで一つ、磐田の「強み」も確認しておく。
被チャンス構築率(守備)のデータを見てほしい。
| 指標 | 磐田の数値 | リーグ順位 |
|---|---|---|
| 被シュート/試合 | 13.5 | 8位 |
| 被チャンス構築率 | 11.2% | 9位 |
| 被ゴール/試合 | 1.2 | 9位 |
| 被xG/試合 | 1.084 | 4位 |
(データ出典:Football LAB J2チームランキング 2026)
被xGはリーグ4位。
つまり、磐田の守備は崩壊しているわけではない。むしろ「堅い」と言える。
問題は攻撃の変換効率だけ。
守備は4位、攻撃のチャンス創出は7位。なのに順位は14位。
これは「チームが弱い」のではなく、
「ゴール前の最後の一刺し」だけが足りていないということがわかる。
まとめ——磐田は眠れる獅子

最後に、感情を入れさせてほしい。
磐田のデータを全部並べてわかったこと。
それは、このチームは弱くない。
xGリーグ7位、被xG4位。数字が証明する「J2屈指の戦力」が、変換効率の崩壊によって14位に沈んでいる。
裏を返せば、「ゴール前の最後の一刺し」が改善された瞬間、このチームは爆発する。
サッカーでは「流れ」というものがある。
1つのゴールが、チーム全体の空気を変える。
硬くなっていた体がほぐれ、「次こそ決める」が「決まる!」に変わる瞬間がくる。
僕はプロ10年の中で、そういうチームを何度か体験してきた。
今の磐田に必要なのは、大きな改革ではない。
データは磐田の「可能性」を証明している。
あとは、それを結果に変えるだけだ。
それが難しいことはもちろん知っている。
だからこそ、選手・監督に最大のリスペクトを持ってこの記事を書いている。
あなたの参考になれば嬉しい。
Just do it.

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