今季最低の攻撃CBP(シュートに結びつく効果的なプレー)を記録した試合で2-1の勝利。
データがバグっているのではない。札幌の戦い方が現実路線に変わった。
第9節いわきFC戦。
どちらも今季ぶっちぎりのワースト。なのに札幌は今季2度目の勝利を手にした。
この矛盾を、元プロサッカー選手の視点から読み解く。
10年間のプロ生活で培った「ロッカールームの内側」の感覚と、データの両面から。
この記事を読むとわかること
- なぜ「自分たちのサッカー」を捨てた試合で札幌は勝てたのか
- 勝利の裏にある「ふわふわ感」の正体と再現性の問題
- 次節ジュビロ磐田をどう攻略するか——具体的な戦い方に考察
逆に読まないと、「勝ったから大丈夫」という空気に流されて、次の磐田戦で現実を突きつけられることになるかもしれない。
いわきFC戦と今季最高スタッツの比較

| 指標 | 栃木C戦(1-4敗戦) | いわき戦(2-1勝利) | 差 |
|---|---|---|---|
| 攻撃CBP | 25.56(今季最高) | 9.17(今季最低) | -16.39 |
| パスCBP | 18.57(今季最高) | 7.31(今季最低) | -11.26 |
| 保持率 | 59.8% | 52.8% | -7.0% |
| シュート成功率 | 4.8% | 13.3% | +8.5% |
| 結果 | 1-4 敗戦 | 2-1 勝利 | —— |
保持率は、52.8%でいわきを上回った。
しかし、チャンスは少なかった。しっかり守って、効率よく得点を重ねた。
このデータからも現実路線に舵をきったことがわかる。
「自分たちのサッカー」を捨てた試合で札幌は、勝利をした。
でも、勝つことがどれだけチームにエネルギーを与えてくれるか実感したはずだ。
「ふわふわ感」の正体——元プロが知るロッカールームの違和感

2-1。ホームで今季2勝目。
でも、正直に言うと、戦術変更後の勝利にあるのは安堵ではなく違和感だった。
「ふわふわ感」と表現するのが一番近い。
プロ10年のキャリアの中で、この感覚を何度か経験した。
やってきたことと違うやり方で勝った時、ロッカールームの空気が妙に軽い。嬉しいが、足元が定まらない感覚だ。
「再現性のない不安」がOFF明けからチームに漂っている。
心理学ではこれを「認知的不協和」と呼ぶ。
自分たちが信じてきたサッカー(パスをつないで崩す)と、
実際に勝てたサッカー(シンプルに前に蹴って個で勝負する)が矛盾している。
この矛盾を頭の中で処理しきれないから、ふわふわする。
そしてこのふわふわ感は、次の試合のホイッスルが鳴るまで消えない。
相手の出方によって、自分たちが何者なのかが試される。
大森真吾の質的優位——「スキップ」できた理由

いわき戦で札幌が勝てた最大の要因。
それは大森真吾がいわきDFとのフィジカルバトルに勝ち続けたことだ。
下からボールをつないで、中盤を経由して、サイドを使って、最後にクロス——という「正規ルート」を通らなくても、大森に蹴れば一気に高い位置で起点を作ってくれた。
つまり、ビルドアップの工程をスキップできた。
攻撃CBPとパスCBPが今季最低だったのは、むしろ当然だ。
パスで組み立てるサッカーを事実上やめているのだから、パスの貢献度が下がるのは数字通りの結果だ。
この試合の大森には「質的優位」があった。
サッカーにおける「質的優位」とは、1対1の局面で個人の能力差で相手を上回ることだ。
大森はまさにそれをいわきDF相手にやり続けた。
でも、ここに落とし穴がある。
心理学でいう「少ないほど良い効果」だ。
選択肢が少ないほうが判断がシンプルになり、結果的にパフォーマンスが上がる。
いわき戦の札幌は「大森に蹴る」という一つの選択肢に優位性を見出したことで迷いが消え、効率が上がった。
ただし、選択肢が一つしかない戦い方は、相手に読まれた瞬間に終わる。
2得点ともコンサがやってきたサッカーではない。
西野のゴール、内田のゴール。どちらもパスをつないで崩した形ではなかった。
勝つことが何よりの薬だ。それは間違いない。
でも、再現性がないことは選手にとっては怖い。これが偽らざる感覚だ。
FWの競争——大森だけでは苦しい

いわき戦で大森がキーマンになったことで、次節以降のマークが確実に厳しくなる。
大森一人に依存する戦い方は持続不可能に近い。
ここで注目すべきは青木亮太だ。
今季出場4試合(先発1)、196分のプレー時間。
第7節大分戦でゴールを決めている。青木の調子は上がってきている。
バカヨコは第8節宮崎戦で得点を挙げている。
しかし、いわき戦はメンバー外。コンディションが万全かどうかは不透明だ。
大森はいまだ無得点だ。一人に集中させるのではなく、青木、バカヨコ、ペイショットなどの質的優位性を持つ選手たちが複数のゴールに向かう脅威を作る必要がある。
そしてもう一つ。セットプレーが鍵を握る。引いてブロックを組む相手を崩すのは、流れの中だけでは限界がある。セットプレーからの得点パターンを磨くことが、現実的な得点源の確保になる。
次節ジュビロ磐田——「データに映らない怖さ」の正体
次の相手はジュビロ磐田。
正直に言う。磐田のサッカーはマジでいい。僕は磐田も考察しているが、なぜ勝ててないのかがわからないほど、サッカーの質も内容も洗練されている。
気になる方はこの記事を読んでほしい。
磐田は現在4連敗中(富山→新潟→八戸→仙台)。
14位、勝点10。3勝1分5敗。
ここに心理学の「損失回避バイアス」が効いてくる。
人間は「得ること」よりも「失うこと」を2倍以上恐れる。4連敗中の磐田にとって、「勝ちに行って負ける」ことの恐怖は想像以上に大きい。
勝ち方を失ったチームの思考回路は自然と「勝ち点1=引き分けでいい」の方向に向かう。
「引き分けでいい。」そう思った瞬間にやられる。これは僕自身のプロ経験で体に刻まれた感覚だ。
ただし、磐田を甘く見てはいけない。
磐田にどう攻めるか——考察
ここからが本題だ。「で、どうすればいいの?」という疑問への考察をしたい。
攻略のカギ①:大森+αの二段構え
大森へのロングボールは確実にマークされる。
だからこそ、大森をおとりに使いながらセカンドボールの回収を徹底する。
大森が競り合った後のこぼれ球を、青木やスパチョークが拾って二次攻撃に転じる。
大森が相手DFを引き寄せることで、周囲にスペースが生まれる。
攻略のカギ②:セットプレーで仕留める
引いた相手を流れの中だけで崩すのは至難の業だ。
セットプレーは「公式な密集戦」。
人が密集する状況で正当に殴り合える数少ないチャンス。
CKやFK からの得点パターンを磨くことが最も現実的な武器になる。
攻略のカギ③:サイドの主導権を握る
磐田の保持率は高い。中央を固めて跳ね返す戦い方では、いずれ崩される。
だからこそ、サイドでの主導権を握る。
相手にボールを持たせても、サイドの深い位置を取らせなければ、クロスからの失点リスクは減る。
まとめ:泥臭さの先にあるもの
いわき戦の勝利は、きれいなサッカーじゃなかった。
パスCBP 7.31。今季最低だ。
大事なのは「自分たちのサッカー」にこだわることじゃない。
勝つためのサッカーを選べるかどうかだ。
いわき戦は「捨てたからこそ得られた勝利」だった。
次の磐田戦は、その勝利を「再現できる形」に進化させる試合だ。
ふわふわ感は、次のホイッスルが鳴るまで消えない。
でも、それでいい。
不安があるからこそ準備をする。不安があるからこそ工夫が生まれる。
僕はプロ10年の中で、その不安と何度も戦ってきた。
不安を力に変えられるチームだけが、生き残るということを。


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