パスCBP 5.61。シーズンワースト。
チャンス構築率 7.2%。これもシーズンワースト。
でも、シュート成功率は18.2%。
シーズンベスト。そして結果は2-1の勝利だった。
数字が最も「悪い」試合が、今季最も「良い」サッカーだった。
これは矛盾じゃない。データが証明している。
FC今治は「ボール保持(パス)を捨てた」ことで、ようやく自分たちのサッカーを見つけたように見えた。
元Jリーガーとして10年プロの世界で戦ってきた僕が、第9節・栃木シティ戦のデータと映像から徹底考察した。
そして、次の徳島ヴォルティス戦がなぜ「勝負の一戦」なのか。
ここまで読めば、次の試合を見る目が変わるはずだ。
この記事を読むとわかること
- 栃木シティ戦がなぜ「今季ベストゲーム」と言えるのか(データで証明)
- FC今治の勝利パターンに隠された「逆張りの法則」
- 次節・徳島ヴォルティス戦で同じ戦い方が通用する理由
逆にこれを知らずに徳島戦を見ると、「なんで今治はボールを持たないんだ」とモヤモヤするかもしれない。
でもそのモヤモヤの正体こそが、今治の武器になっている。
勝利の法則:「ボールを持たない」ほうが勝てる

勝った2試合と、負けた6試合の平均値を比較する。
| 指標 | 勝利2試合の平均 | 敗戦6試合の平均 | 差 |
|---|---|---|---|
| 保持率 | 49.2% | 51.5% | ボールを持たないほうが勝つ |
| パスCBP | 7.71 | 10.25 | パスに頼らないほうが勝つ |
| 奪取P | 93.19 | 69.5 | ボールを奪うほうが勝つ |
| シュート成功率 | 15.4% | 5.3% | 決定力が3倍 |
答えは明白だ。
FC今治は、ボールを持たないほうが勝てる。
パスを回さないほうが勝てる。
相手からボールを奪い、少ないチャンスを一発で仕留める。これが今治の「勝利の方程式」になっていることがわかる。
保持率59.4%でパスCBP 12.88を記録した大宮戦(第2節)は2-3で負けている。
保持率51.5%でパスCBP 15.36のシーズン最高値を出した富山戦(第3節)は0-4の惨敗。
「丁寧にパスをつないで崩す」サッカーを追求すればするほど、今治は負けていた。
栃木C戦がなぜ「今季ベスト」なのか:3つの理由

理由①:縦に速い。判断がシンプルになった
パスCBP 5.61はシーズン最低値。つまり、パスで崩す攻撃を「捨てた」。
これは弱さじゃない。
手段を変えた選択だ。むしろ強さだと僕は思っている。
行動経済学に「少ないほど良い効果」という原則がある。
選択肢が多いほど人は迷い、判断が遅くなる。
逆に選択肢を絞ることで、判断のスピードと精度が上がる。
今治の選手たちがやったのは、まさにこれだ。
「パスで崩すか、縦に速く運ぶか」の二択から、「縦に速く運ぶ」一択にした。
迷いがなくなった分、ボールを奪った瞬間のトランジション(攻守の切り替え)が速くなった。
この一連の流れにチームとしての「意図」が見えた。
バラバラだった歯車が、ようやく同じ方向に回り始めた。久保山監督の手腕は確かだ。
理由②:1点目に凝縮された「技術×速さ」の融合
この試合のハイライトは1点目だ。一人で興奮した。
今治のセンターバックにプレスがかかっていなかった。ここがポイントだ。
プレスがかかっていないということは、CBに時間がある。
その時間を使って、対角への正確なロングフィードを入れた。
このワンパスで、相手の守備陣6枚を一気に無効化した。
普通、6人のDFを攻略するには何本もパスをつなぐ必要がある。
でもこのシーンでは、たった1本の対角ロングフィードで相手の守備網をすべてスキップした。
しかも、このロングフィードの精度が高かった。
これはポゼッションサッカーで培った技術の蓄積があるからこそだ。
ボールを受けたのは左サイドの森晃太。
今季2ゴールを決め、攻撃CBP 9.85、クロス3.20、ドリブル2.67を記録する今治の攻撃の起爆剤となっている。
森の個の力が、この場面で炸裂した。
つまり、1点目は「縦の速さ」と「ポゼッションで培った技術」が融合したゴールだった。
速さだけでもない。技術だけでもない。
その掛け算が、この得点を生んだ。
理由③:守備にチームの「意図」が見えた

奪取P 100.36。
これはシーズン2位の高数値で、第5節・大分戦(102.24)に次ぐ。
しかも今治はインターセプト数がリーグ1位(1試合平均2.6回)。
ボールを「待って受ける」のではなく、「自分たちから奪いにいく」守備をしていることがデータからもわかる。
これが重要なのは、守備にチームとしての共通理解があるということだ。
この設計図が選手全員の頭に入っている試合は、見ていてわかる。
2点目のエジガルジュニオへのパスがまさにそれだ。
奪った瞬間に、最も得点が取りやすい「バイタルエリア」にボールを刺す。
迷いがなかった。
僕がプロの世界にいた頃、チームがうまくいっている時って、言葉がなくても「次にこいつはここに走る」「俺がここで奪えばあいつが裏に抜ける」という感覚がある。
栃木C戦の今治には、その感覚が見えた。
モウレロ監督の時間は無駄じゃなかった

ここで大事な話をしたい。
アベル・モウレロ監督のもとで6試合、1勝1分4敗。数字だけ見れば「失敗」に見えるかもしれない。
でも僕は、あの期間は絶対に無駄じゃなかったと思っている。
心理学に「計画錯誤」という概念がある。
目標を達成するために必要な時間やリソースを、人は過小評価しがちだという考え方だ。
モウレロ監督が目指したポゼッションサッカーには、高い技術と判断力が必要だった。
J2のレベルで、限られた戦力で、それを完成させるには時間が足りなかった。
これは計画錯誤だったかもしれない。
でも、あの期間に選手たちが積み上げたパス技術、ビルドアップの精度、バイタルエリアでボールを持つ感覚。それは消えていない。
1点目のCBからの対角ロングフィード。
あの精度は、ポゼッションを突き詰めた時間がなければ生まれなかった。
左サイドでの崩し。バイタルエリアでボールを持てるようになったこと。
これもモウレロ時代の蓄積だ。
久保山由清監督のもとで、ポゼッションの「技術」に「速さ」が加わった。
点と点がつながって、線になりはじめている。
僕自身のプロ人生を振り返っても、遠回りに見えた時間が後から効いてくることは何度もあった。
無駄な練習なんてない。
ただ、その使い方が変わるだけで点と点が繋がる時がある。
栃木C戦の「成功の構図」まとめ
| 成功要因 | データの裏付け | なぜ効いたか |
|---|---|---|
| 縦に速いサッカー | パスCBP 5.61(最低) | 選択肢を絞り判断が速くなった |
| 守備の強度と意図 | 奪取P 100.36(2位) | 高い位置でボールを奪い速攻に転じた |
| 少ないチャンスを仕留める効率 | シュート成功率 18.2%(最高) | 質の高いチャンスだけを選んだ |
| 森の個の力 | 攻撃CBP 9.85 / ドリブル2.67 | 1対1で局面を打開できる |
| ポゼッション技術の転用 | CB→対角ロングフィードの精度 | モウレロ時代の技術が「速さ」と融合 |
次節・徳島ヴォルティス戦が「勝負の一戦」である理由
栃木C戦で見えた「勝利の方程式」、これが本物かどうか、次の徳島戦で試される。
まず徳島のデータを見てほしい。
| 節 | 相手 | スコア | H/A | 保持率 | シュート | 成功率 | 奪取P |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 札幌 | 0-2 | A | 53.0% | 8 | 0.0% | 84.50 |
| 2 | 鳥栖 | 0-0 | H | 48.1% | 6 | 0.0% | 84.00 |
| 3 | 磐田 | 1-2 | A | 47.4% | 5 | 20.0% | 57.13 |
| 4 | 大分 | 1-0 | H | 53.1% | 10 | 10.0% | 75.62 |
| 5 | いわき | 1-0 | H | 52.4% | 12 | 8.3% | 75.69 |
| 6 | 秋田 | 1-4 | A | 66.2% | 6 | 16.7% | 63.96 |
| 7 | 甲府 | 1-0 | A | 46.0% | 3 | 33.3% | 91.03 |
| 8 | 栃木C | 3-0 | H | 44.9% | 31 | 6.5% | 64.55 |
| 9 | 新潟 | 1-2 | A | 52.7% | 15 | 6.7% | 68.25 |
ここで驚くべき事実がある。
徳島も、ボールを持たないほうが勝っている。
徳島はボールを大事にするチームだ。
平均保持率は約51%。でも、ボールを持たされた試合で大崩れしている。
これは今治と同じ構図だ。
つまり、FC今治が栃木C戦で見せた「縦に速く、ボールを持たない勝ち方」は、徳島にとっても最もやりにくい戦い方だということ。
徳島は保持率50%を超えた試合で3勝1分4敗。
保持率が低い試合で勝っている。今治と同じ傾向。
だから、今治は栃木C戦のやり方を変える必要がない。
むしろ、徳島がボールを持ってくれるなら好都合だ。
相手にボールを持たせて、縦に速く刺す。栃木C戦で証明した構図そのままにできるかが鍵をにぎる。
ただし、1つだけ警告がある

徳島のホーム成績:3勝1分0敗。無敗。
徳島はアウェーでは1分4敗と壊滅的だが、ホームでは別チームになる。
第8節のホーム栃木C戦では31本のシュートを浴びせて3-0の完勝。チャンス構築率30.4%は今シーズンJ2全体でもトップクラスの数字だ。
次の徳島戦はアウェー。つまり徳島のホーム。
甘く見てはいけない。
栃木C戦の成功体験があるからこそ、「このままでいい」と思ってしまう危険がある。心理学では正常性バイアスと呼ばれる——「今うまくいっているから大丈夫」と現状を過大評価する認知のゆがみ。
勝った次の試合こそ、メンタリティが試される。
FC今治の観戦ポイント3つ
①変えない勇気を持つこと
勝った試合の後、「もっとボールを持とう」「もっとパスをつなごう」と欲が出ることがある。
でもデータが示しているのは逆だ。
ボールを持たないほうが今治は勝てる。
栃木C戦で掴んだスタイルを次も貫くこと。これが一番重要だ。
②セットプレーとクロスへの対応
今季の失点17のうち、セットプレーからの失点が5(29.4%)、クロスからの失点が6(35.3%)。合わせて64.7%がこの2つに集中している。
攻撃が良くなっても、この弱点を放置すれば勝ちきれない。
特に徳島のホームではセットプレーの精度が上がる。
ここの対応がカギを握る。
③ゴール期待値との差を埋める
今季のゴール期待値は1.328だが、実際の得点は1試合平均0.88。期待値より約0.45点少ない。
つまり、チャンスは作れているのに決めきれていない試合がまだ多い。
栃木C戦のシュート成功率18.2%は素晴らしかったが、これを続けるにはフィニッシュの精度をさらに高める必要がある。
Eジュニオが今季3得点目を決め調子を上げている。
森も2得点。この2人の得点感覚が維持されれば、徳島戦でも得点の匂いがする。
まとめ:栃木C戦の教訓と徳島戦の展望
| テーマ | 栃木C戦の事実 | 徳島戦への示唆 |
|---|---|---|
| ボール保持 | 49.0%で勝利 | 徳島にボールを持たせてOK |
| パス | パスCBP 5.61(最低) | パスで崩す必要なし。縦に速く |
| 守備 | 奪取P 100.36(2位) | 高い位置で奪って速攻 |
| 決定力 | シュート成功率 18.2%(最高) | 少ないチャンスを仕留める |
| 個の力 | 森・Eジュニオが得点 | 左サイドの崩しが武器 |
| 相手の傾向 | — | 徳島もボールを持つと負けるパターンあり |
| 注意点 | — | 徳島はホーム無敗(3勝1分) |
2勝1分6敗。19位。
数字だけ見れば厳しい状況だ。でも栃木C戦で、今治は確実に何かを掴んだ。
大事なのは、ゴールに向かう「意図」がチーム全体にあること。
モウレロ監督のもとで積み上げたポゼッションの技術。
それが久保山監督のもとで「速さ」と融合し始めた。点と点がつながって、線になりはじめている。
でも、線になりかけたところで止まったら、また点に戻る。
だから徳島戦が大事だ。
皆がわかっていることだと思うがあえて伝える。
栃木C戦で見せた「自分たちのサッカー」を、徳島のホームでも貫けるか。
アウェーの圧力の中でも、ブレずに縦に速く、泥臭く戦えるか。
僕はプロ10年の中で、遠回りした時間が無駄じゃなかったことを体で知っている。
今治も同じだ。苦しんだ8試合があるから、栃木C戦の勝利に意味がある。
次の一歩を、止めない強さを期待したい。
あなたの参考になれば嬉しい。
Just do it


コメント