ボール支配率53%。シュート13本。スルーパス20本。
モレロ体制で苦しんでいた時期と、何も変わっていない。
いや、もっと言えば
——「持てるから持つ」サッカーに逆戻りしている。
久保山体制では「持てるけど持たない」サッカーを選んでいた。
ボールを持つ技術がありながら、あえてリスクを取らず、少ないチャンスを確実に仕留める。
それが勝ち点を積み上げたスタイルだった。
しかし甲府戦で出た「脳汁」——ボールを回して崩す快感が、チームの判断を狂わせた。
「できること」と「やるべきこと」を混同した瞬間、今治のゲームプランは崩壊した。
データと元プロの肌感覚の両面から今治の構造的な問題を考察した。
この記事を読むとわかること
- なぜボール支配率53%で0-4の大敗になったのか
- 甲府戦の「成功体験」が札幌戦で罠になった構造
- 必要な「2つの顔」
この構造を理解しないまま次の試合を見ると、「また同じだ」というモヤモヤがずっと続く。
今治vs札幌 試合スタッツ比較
| 項目 | 今治 | 札幌 |
|---|---|---|
| スコア | 0 | 4 |
| ボール支配率 | 53% | 47% |
| シュート数 | 13 | 13 |
| 枠内シュート | 5 | 6 |
| パス数 | 503 | 452 |
| スルーパス | 20 | 9 |
| クロス | 19 | 9 |
| タッチ数 | 977 | 864 |
| アタッキングサード | 288 | 190 |
| チャンスクリエイト | 9 | 9 |
| 1対1勝利 | 14 | 17 |
| タックル | 9 | 15 |
| クリア | 23 | 39 |
(出典:Jリーグ公式サイト)
でもゴールはゼロだ。
一方の札幌は、タックル15(今治の1.7倍)、
1対1勝利17(今治より3多い)、クリア39(今治の1.7倍)。
守備の数字が圧倒的だった。
データ上でも僕自身の肌感覚にも齟齬はない。
ボールを回す今治と、守備の再現性で奪って仕留める札幌。
この試合の構図が、スタッツに凝縮されている。
3つの疑問
- 「なぜ甲府戦のように崩せなかったのか?」
- 「なぜ右サイドばかりにボールが集まるのか?」
- 「なぜ0-2からの立て続けに失点したのか?」
この3つが、今治ファンの心の中にあるモヤモヤだと思う。
「気持ちいいサッカー」と「勝てるサッカー」が別物だということを、身体に刻まれるほど学んだ。
ボールを回して、ポケットを取って、コンビネーションで崩す。
選手としては脳汁が出る。本当に気持ちいい。
甲府の成功体験が生んだ「錯覚」

甲府戦と同じサッカーを札幌にぶつけた。
第14節の甲府戦(1-1)。
今治はシュート21本を記録した。
試合展開も優勢で、ポケットに侵入してフリック、ドフリーでシュートを打つシーンなど多くあった。
この「気持ちいいサッカー」の感覚
——いわば脳汁が出た状態が、チーム全体に残っていた。
ボールを回して崩す快感は、一度味わうと忘れられない。
僕自身、プロ時代に何度もこの罠にハマった。
そしてわずか3日後の札幌戦。
今治は同じやり方をそのまま持ち込んだ。
甲府戦で出た脳汁が「これでいける」という錯覚を生み、冷静にゲームプランを見直す余裕を奪った。
今治のボール支配率53%、パス503本。
これだけの数字を見れば、攻めている「感覚」はある。でも実態はどうか。
スルーパス20本のうち、決定機につながったのはごくわずかだ。
クロス19本のうち、エジガルの頭に届いたものは限られる。
ボールを回している間、札幌のディフェンスラインは整い、ブロックの中で休憩していた。
甲府戦でうまくいったポケット侵入は、甲府の守備組織が整う前にスペースがあったからこそ成立した。
しかもその甲府戦でさえ結果は1-1の引き分けだ。
札幌は違う。
札幌のKAGI(攻撃の鍵指数)は49.5でJ2第8位。
今治は44.2で第19位。この差が示すのは、「鍵を開ける能力」の決定的な格差だ。
しかも札幌は5試合連続クリーンシートという守備の安定感を手にしていた。
DFラインがスライドし、スペースを消す組織力が構築されている。
「甲府だからできた」のに、「札幌にも同じことができる」と思い込んだ。
脳汁が出た状態では、冷静な判断ができない。
これが計画錯誤だ。
やりたいサッカーに必要な条件(相手の守備レベル)を過小評価してしまったように映った。
スローイン起点の2失点——自陣深くのミスが招く「4人守備」の地獄
1失点目と2失点目は、いずれもスローインから崩れている。
自陣深いところからのスローイン。ここでミスが起きると、何が起こるか。
前線にポジションを取っていた選手は、守備に戻ることができない。
結果、4人か5人で守るしかない状況に追い込まれる。しかもバタバタと慌てて動いてしまうので、正対した状態から前向きにプレッシャーをかけるのではなく、動いた状態での守備になる。
正対した守備と、動きながらの守備。この差は決定的だ。
正対していれば、相手の動きに対してリアクションを取れる。
しかし自分が動いている状態では、ボールにプレッシャーをかけながら体を入れ替えなければならない。
相手からすれば、動いているDFのほうが圧倒的に抜きやすい。
僕自身、FWとしてプロ10年の中でこの状況を何度か経験してきた。
DFがバタバタしている瞬間は、FWにとって一番美味しい時間だ。
冷静にボールを動かすだけで、スペースが生まれる。
この2失点が重い。0-2という状況を作ってしまったことが、残りの試合展開を完全に支配した。
右サイド4枚がもたらすカウンターリスク

この試合の今治は4枚が右サイドに関わりながらボールを回す印象が強かった。
右サイドに4枚をかけるということは、
ボールを奪われた瞬間に4枚が攻撃に出ている状態になる。
札幌のタックル数15(今治の1.7倍)が物語るように、札幌は積極的にかつ冷静に狙い所を持ってボールを奪いにきた。
そして奪った瞬間、今治の守備陣は数的不利に陥る。
3点目(52分)は、まさにこの構造から生まれた。
今治が前がかりになった瞬間を突かれている。
札幌がスペースを消すためにスライドしてくる。
右サイドに人を集めてブロックする。
この状態で無理にこじ開けようとしても、札幌の人数が揃ってしまっている。
本来は、右サイドで時間をかけすぎる前に早く逆サイドに展開して、CBの体の向きが変わらないうちに攻撃を完結させるべきだった。
守備の設計図を思い出してほしい

0-2になった時点で、今治のプランは完全に崩壊した。
必然的にリスクを冒してボールを保持する中で、札幌のショートカウンター、ロングカウンターに晒される。
今治のディフェンダーにとって、これは荷が重い展開だった。
守備が整う前に攻撃を完結される——3点目、4点目はまさにその構造だ。
0-2が生んだ悪循環——梅木の位置と遠山のゴール
2点取られたことで、2点取らないと勝ち点1すら取れない状況に追い込まれた。
点差がついた理由は、これが一番大きな要因だ。
そうなると、サイドハーフ・ウイングバックの梅木をはじめ、攻撃的な選手が高い位置を取らざるを得ない。
しかし高い位置を取るということは、奪われた瞬間に戻れないということだ。
その結果、相手の攻撃陣にスペースを容易に与え、最終的にゴールを決められた。
本来、0-0、0-1の展開であれば、梅木はもっと低いポジションを取ることができる。
でも0-2に追い込まれた状態では、上がらないと点は取れない。
リスクを取るしかない。
取った結果、裏を突かれて3点目、4点目を献上した。
これは悪循環だ。そしてこの悪循環のスイッチを入れたのが、スローインから崩れた最初の2失点だった。
むしろ今治が監督交代後やってきたサッカーを目の前でやられた。
このデータが示すのは、守備の安定がチームの土台になっていないということだ。
今治の選手たちには、ボールを回す技術がある。
しかし、「できること」と「やるべきこと」は違う。
札幌のような相手には、チーム全体でブロックを組んで0-0をどれだけ引き伸ばせるかが勝負の分かれ目になる。
0-0のままなら、後半の交代カードで一発を狙える。
「できるからやる」のボール保持サッカーを捨てて、相手の一瞬の隙をついて刺す——この割り切りが今の今治には必要だ。
0-0は消極的な結果ではない。
0-0を守ることで、勝つための時間を稼げる。
エジガルというFWがいるからこそ、0で凌ぐことは大きな勝ちにつながる。
札幌の変貌——「持たせるサッカー」への転換

ここで札幌側にも目を向けたい。
今治を0-4で粉砕した札幌は、シーズン序盤とは別のチームになっていた。
| 時期 | 成績 | 勝ち点 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 第1〜10節 | 3勝2分5敗 | 11 | 攻守に不安定、4失点の試合が2つ |
| 第11〜15節 | 5勝0分0敗 | 15(累計26→23) | 5試合連続クリーンシート |
第11節・秋田戦(1-0)から5連勝。
しかもすべてクリーンシート。
注目すべきは第13節の富山戦。シュートわずか5本で1-0勝利。
札幌は「ボールを持つサッカー」から「奪って刺すサッカー」に完全に切り替えている。
意図的かわからない。でもデータと映像から容易にわかる変化だ。
タックル15回(今治の1.7倍)が象徴するように、札幌は守備時のインテンシティを上げ、奪ってからの速い攻撃でゴールを奪う。
今治に53%のボール支配を許しながら4得点。
これは「持たされている」のではなく、「持たせている」。
札幌のKAGI49.5(J2第8位)が示すのは、少ないチャンスを効率的にゴールに変える「攻撃の鍵を開ける能力」。
ボール保持率が低くても、そこに質の差がある。
ターンオーバーが揺らがせた「背骨ライン」

もうひとつ見逃せない問題がある。ターンオーバーだ。
2連勝してきたメンバーから大幅に選手を入れ替えている。
背骨ライン——GK、CB、ボランチ、FWといったチームの軸になるポジションが変わっている。
菊池をはじめ、2連勝時のメンバーとは違う顔ぶれでピッチに立った。
連戦の中でターンオーバーは必要だ。それは間違いない。
しかし背骨ラインを変えすぎると、チームの「やるべきこと」がブレる。
久保山体制で積み上げてきた「持てるけど持たない」サッカーの意思統一は、同じメンバーで繰り返すことで体に染み込む。
メンバーが変われば、その共通認識が薄れる。
もう一度、自分たちが一番勝ち点を獲得しているパターンを冷静に見極めて、そのサッカーを愚直に続けるしかない。
試合はどんどん進んでいく。迷っている時間はない。
まとめ

今治のサッカーは見ていて面白い。
ボールを持てば何かが起こりそうな予感がある。
エジガルにボールが渡ればゴールの匂いがする。
でも、「面白いサッカー」と「勝てるサッカー」は必ずしも一致するわけではない。
僕自身、プロとして10年やってきた中で、この葛藤を何度も経験した。
気持ちいいプレー、脳汁が出るような連携、チームメイトとの息が合う瞬間——あの感覚は本当に最高だ。
勝つ試合は、たいてい泥臭い。
格好悪い。でも、勝ち点3を積み上げる。
19位は厳しいが、絶望する位置ではない。
まだやれることはある。
Just do it

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