2026年8月16日、J2第2節の磐田vs横浜FC戦。
PA外のファウルがPKと判定され、
磐田MF乾貴士が審判団との握手を拒否しました。
試合後、乾選手はこう語っています。
この言葉に共感したサッカーファンは、かなり多いはずです。
元Jリーガーとして10年間プレーした僕も、少しだけ同じ気持ちです。
この記事では、Jリーグで誤審がなくならない構造的な理由と、
J2にVARが導入されない3つの壁を解説します。
「審判が悪い」のではありません。
問題の本質を一緒に考えてみましょう。
誤審がなくならない3つの理由【結論まとめ】
結論から言うと、誤審がなくならないのは「審判個人の能力」ではなく「構造の問題」です。
そして、J2にVARが入らないのにも明確な理由があります。
| ポイント | 内容 | キーワード |
|---|---|---|
| ①誤審が起きる構造 | 人間の認知には限界がある。 1試合で200以上の判定を下す審判に、 100%の正確性を求めること自体が無理 | 認知的負荷 |
| ②VARが入らない3つの壁 | コスト(1試合100万円) 人材(年8人しか育成できない) スタジアム(機材対応が必要) | 構造的障壁 |
| ③ファンの向き合い方 | 「審判が悪い」で思考停止せず、 問題の構造を理解した上で 声を上げることが変化を生む | 建設的批判 |
この3つを順に解説していきます。
誤審を見たときの3つのチェックリスト

記事を読む前に、まず「今すぐ使える視点」を3つ。
- 「本当に誤審か?」を確認する
SNSの怒りに流される前に別角度のリプレイを探す
確証バイアス
(自分に都合のいい情報だけ集める心理)に注意 - 「なぜ起きたか?」を考える
審判の位置、スピード、死角を想像してみる。
審判も人間であることを忘れない - 「どうすれば防げるか?」に目を向ける
個人攻撃ではなく、VAR導入や
審判育成の制度改善を求める声を上げる
この3つの視点を持つだけで、誤審への向き合い方がガラッと変わります。
誤審が起きる構造的な理由 ── 審判は「1試合200回以上の判定」を下している

誤審は審判個人の問題ではなく、
人間の認知能力の限界から起きます。
サッカーの試合は90分。
その間、主審が下す判定は200回以上と言われています。
しかも、それを0.5秒以内に判断しなければいけない場面がほとんどです。
「認知的負荷理論」が教えてくれること
心理学に「認知的負荷理論」という考え方があります。
人間が同時に処理できる情報には限界がある、という理論です。
サッカーの審判に当てはめると、こうなります。
これを全部同時にやるんです。
人間の脳には「ワーキングメモリ」と呼ばれる
短期記憶の容量があって、一度に処理できるのは7±2個の情報と言われています。
サッカーの審判は、それをはるかに超える情報を処理しなければならない。

つまり、どれだけ優秀な審判でも、ミスはゼロにはなりません。
僕がプロ時代に感じた「審判の孤独」

元プロとして10年プレーした僕の立場から言わせてもらうと、
審判は本当に孤独な仕事たど思います。
僕も現役時代、明らかにファウルをもらったのにノーファウルと判定されて、頭に血が上ったことは何度もあります。
でも、試合後に冷静になって映像を見ると、
「あの角度からは見えなかったかもな」と思うことも正直ありました。

でも、同じピッチに立つ仲間として、
僕は審判の立場も理解できる部分があります。
過去の具体的な誤審事例
「審判の限界」をデータで見てみましょう。
| 年月 | 試合 | 内容 | 問題点 |
|---|---|---|---|
| 2026年8月 | 磐田vs横浜FC(J2) | PA外ファウルをPK判定 | 主審の位置から死角だった可能性 |
| 2023年4月 | 町田vs秋田(J2) | ゴールライン明らかに超えたシュートがノーゴール | 副審の位置・角度の問題 |
| 2025年7月 | 栃木vs相模原(J3) | ゴールラインを割ったボールからのゴールが認められた | ゴールラインテクノロジー未導入 |
どの事例にも共通するのは、「テクノロジーがあれば防げた」ということ。
審判の能力が低いのではなく、
人間の目だけでは限界がある判定なんです。
J2にVARが導入されない「3つの壁」
J1では2021年から全試合でVARが導入されています。
では、なぜJ2には入らないのか。
「お金がないから」と思われがちですが、実はそれだけではありません。
3つの壁があります。
壁①:コスト ── 1試合100万円、年間1億円の維持費
VARの導入・運用にかかるコストは、1試合あたり約100万円。
年間の維持費は約1億円と言われています。
J2は全22クラブ。
1シーズンの試合数を考えると、
導入コストだけで数十億円規模になります。
J2クラブの多くは、J1に比べて経営規模が小さい。
年間予算10億円に満たないクラブもある中で、
壁②:人材 ── VARを扱える審判は年8人しか育成できない

これが最も深刻な壁かもしれません。
現在、Jリーグ全体で主審と副審は合わせて153人。
VARをJ2にも導入する場合、
J1〜J3で約180人の審判が必要になります。
そして、VARオペレーターとして独り立ちできる審判を育てるには、専門のトレーニングコースが必要です。
このコースは毎年8人しか受講できず、
1コース開催でJFAに数千万円の費用がかかります。
J2は1節あたり11試合。
つまり、
- 毎節最低11人×4名
(VAR+AVAR+リプレイオペレーター等)
↓ - 44人のVAR要員が必要
現状では、物理的に人が足りないんです。
壁③:スタジアム ── 機材を置く場所がない
VARの運用には、スタジアム内にVARルームを設置する必要があります。
など、スタジアムの構造そのものが対応していなければ使えません。
J2のスタジアムは自治体が所有しているケースが多く、
これには時間もお金もかかります。
「正常性バイアス」が改革を遅らせる
ここで注目したいのが、心理学でいう「正常性バイアス」です。
「今までこのやり方でやってきたから大丈夫だろう」と思い込む心理のことです。
J2でVARがない状態が何年も続くと、
関係者の中に「なくてもなんとかなっている」という感覚が生まれます。
乾貴士選手の「本当に同じことの繰り返し」という言葉は、
まさにこの正常性バイアスを打ち破ろうとする叫びだったと思います。
ファンとして誤審とどう向き合うか ── 「怒り」を「変化」に変える方法

誤審に対する怒りは当然です。
でも、「審判が悪い!」で終わると、何も変わりません。
大切なのは、怒りを「建設的な声」に変えること。
「確証バイアス」に気をつけよう
心理学に「確証バイアス」という概念があります。
自分の信じたいことを裏付ける情報ばかり集めて、
反する情報を無視してしまう心理です。
たとえば、自分の応援するチームに不利な判定があったとき。
「あの審判はうちのチームに厳しい」と思い込むと、
その後のプレーでも不利な判定ばかりが目につくようになります。
実際には、
でも、確証バイアスがかかると、それが見えなくなる。
SNSで「誤審だ!」と騒ぐ前に、
一度冷静になって別角度の映像を確認する。

これだけで、本当の問題が見えてくることがあります。
サポーターの視座も上げる必要がある。
声の上げ方で未来は変わる
J1にVARが導入されたのも、
選手やファンの声が大きくなったからです。
ただし、審判個人を攻撃するのではなく、
「制度としてVARを導入してほしい」という建設的な声であるべきです。
乾選手の「これならJ2にもVARを導入してほしい」という発言は、僕は素晴らしいと思います。
ファンにもできることがあります。
「怒り」を「行動」に変えること。
それが、変化を生む唯一の方法です。
データで見るVARの現状 ── 日本は世界から遅れている

日本のVAR導入状況を整理しておきましょう。
| 項目 | J1 | J2 | J3 |
|---|---|---|---|
| VAR導入 | 2021年〜全試合 | 未導入 | 未導入 |
| ゴールラインテクノロジー | なし | なし | なし |
| 半自動オフサイド判定 | なし | なし | なし |
| 1試合の追加コスト(VAR) | 約100万円 | ─ | ─ |
注目すべきは、J1のVARも世界のトップレベルではないということ。
ヨーロッパの主要リーグでは、
が標準装備されていますが、
J1のVARは2Dカメラベースで、
微妙なオフサイド判定では精度に限界があります。
つまり、日本サッカー全体として「テクノロジー活用」はまだ発展途上なんです。
誤審を「誤審」と認めない文化
JFAの審判委員会は、誤審があった場合
「レフェリーブリーフィング」という場で取り上げます。
ただし、2023年の町田vs秋田戦の明確なノーゴール誤審でさえ、「誤審」という言葉を使わなかったという指摘があります(Forbes Japan報道)。
誤審を「誤審」と認めない文化があるとすれば、改善のスピードは遅くなります。
問題を直視することが、変化の第一歩のはずです。
「自分には関係ない」と思った人へ

審判の話なんて、サッカーファンにしか関係ないでしょ?
そう思うかもしれません。
でも、これは「ルールの公平性」の問題です。
スポーツに限らず、仕事でもなんでも「正しく評価されない」ことほどモチベーションを奪うものはありません。
J2で結果を出してJ1昇格を目指すクラブにとって、
1つの誤審が昇格の可能性を左右することだってある。
「自分には関係ない」と思っている人こそ、この問題を知ってほしい。
なぜなら、関心を持つ人が増えることが、変化を起こす最大の原動力だからです。
まとめ ── 誤審問題の本質と僕たちにできること
最後に、この記事のポイントをまとめます。
| ポイント | まとめ |
|---|---|
| ①誤審の原因 | 審判個人の能力ではなく、人間の認知限界。 1試合200回以上の判定を0.5秒で下す過酷さ |
| ②VARが入らない理由 | コスト(年間1億円) 人材(年8人育成) スタジアム(機材対応)の3つの壁 |
| ③ファンにできること | 確証バイアスに注意し、 個人攻撃ではなく制度改善の声を上げる |
今日からできる最初の一歩:
次に「誤審だ!」と思ったとき、
SNSに書き込む前に10秒だけ立ち止まってみてください。
この3つを考えるだけで、
あなたの発言は「ただの怒り」から「変化を生む声」に変わります。
サッカーをもっと公平で、もっと面白いものにするために。
僕たちファンにもできることがある。
一緒に声を上げていきましょう。

